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思いの丈をぶちまけて
東の空が明るく白んだ。朝が来たのだ。
「くそ、こんな無駄な時間を過ごすんなら気合で寝るべきだった」
シキが忌々しそうに呟いた。エロスの方向性で喧嘩をし、途中で共通点を見出して盛り上がり、最終的に閨について深い考察を展開した私とトキへの当て擦りだろう。
ちなみに物陰の男・シスイはいつの間にか姿を消していた。
「シキはこの手の話、好きなんじゃなかったけー?」
魂の抜けた顔をしたエナミが棒読みで尋ねた。
「野郎同士でする分にはな。女が混じると気まずくて本音を言えねーよ」
「……だよな。肉親が混ざると更にキッツイぞ?」
ごめんなさいねぇ。私とトキは言いたいことを言えたもんでスッキリだ。彼とは友達になれる気がしてきた。現世で戦争が終わったらまた会いたいな。
『あ~どうも皆さん、おはようございま~す』
黒い鳥が飛んできて、寝起き直後みたいなこもった声で挨拶してきた。案内鳥も寝るのかな。
『何か知りたいことはございますか~?』
エナミが待ってましたとばかりに問い掛けた。
「管理人達の現在位置を教えてくれ」
『ええと、ミユウ様は生者の塔の傍。キサラさんの知り合いの……アキオさんですか、彼は塔が在る野原の先、山の上を飛んでいます。最後の一人は湖の向こう側ですね』
「山の上に湖の向こう……。彼らと戦うにはまただいぶ歩くことになりそうだね?」
私は今日も疲れる覚悟をしたのだが、シキがニヤリと笑って円柱の形をした火薬を取り出した。
「いや、狼煙を上げてこちらへおびき寄せる」
忍びは離れた位置に居る仲間へ、作戦の成功や逆に危険を知らせる手段として、色付きの狼煙を上げることが珍しくない。私も材料を持っていたりする。
「そか。それなら体力満タンで戦えるね」
「まぁな。さっそくこれから森の外での戦闘となるが、みんな覚悟は出来ているか?」
「大丈夫」
「ああ」
私はトキの近くへ寄った。
「トキ、私達はこれから管理人を倒しに行くけど、あなたはこの森で隠れていなさいね」
「えっ……」
意外そうな顔をするトキ。付いてくる気だったか。
「二人の管理人を相手にすれば必ず乱戦になる。私達にはあなたを護る余裕が無くなるの」
「あ、うん……。戦えない俺は足手まといになるよな……」
トキは寂しそうだが命が懸かっている。お互いの為に一旦離れた方がいい。口を挟まないということはエナミとシキも同意見なのだろう。
「必ず勝って迎えに来るからさ、それまでここで待っててよ」
「うん……」
まるで託児所に預けられる幼児だな。苦笑して私はトキの肩を軽くポンポンと叩いた。
「じゃ、行ってくる!」
「絶対に戻ってこいよ!!」
『頑張って下さいね~。応援しております~』
熱いトキと気の抜けた案内鳥の声援を背に受けながら、私は矢筒を担いだエナミとシキと共に歩いた。
エナミが私の顔をチラチラと覗く。
「ん? どした?」
「姉さんが真っ直ぐで優しい人だなぁって。……嬉しいんだ」
「へぁっ!?」
真顔で褒められて声が裏返った。
「な、何エナミ……」
「気を悪くしないでね? シキから隠密隊に長く居るとさ、皆おかしくなるって聞いていたんだ」
「ああ……」
「だから姉さんも心を病んでしまったんじゃないかって心配してた。明るくて元気なままで良かった……」
あはは。実は私も何度か狂いそうになったことが有る。足抜けに挑戦して殺された方がいいんじゃないかと考えたことも。これは弟には話せないねぇ。
「エナミとお父さんにいつか会えるって信じていたの。それで過酷な任務に耐えられたんだ」
「姉さん……。本当に、もっと早く俺が迎えに行けていたら……!」
「あなたはちゃんと現世で私を見つけてくれた。それに地獄にまで追い掛けてくれた。感謝ばかりだよ」
「でも……」
「ホラもう森を抜ける。戦いが始まるんだから気持ちを切り替えて?」
大樹の傘から出て、岩が点在する野原が眼前に開けた。
遠くに白い塔が見える。距離が開いたので管理人の姿までは目視できない。
シキが火薬を地面に置いた。
「ここで上げるの? もっと塔から離れた方が良くない?」
「ここの地形は戦いに適している。平坦だし見晴らしもいい。あの岩が作る影に身を潜めれば現れた管理人に奇襲も可能だ」
「でもミユウと言う管理人も来ちゃうかもよ? 流石に三体の管理人を同時に相手するのは無謀じゃない?」
「塔の守護者は塔の傍を離れない。そういう決まりだ」
シキは短い火起こし棒を擦った。そして発生した赤い小さな炎を火薬の導火線に灯した。
ピュイィィイイッ。
甲高い音を上げて赤い煙が空へ昇る。隠密隊内で赤い色は「敵と交戦中」の合図として使っていた。シキが現在所属する桜里兵団ではどういう意味なんだろう。今度時間が有る時に聞いておこう。
「よし、岩に隠れろ!」
「姉さん、俺と一緒に」
私はエナミと共に岩の一つに潜んだ。朝日を受けて岩から長い影が伸びていたので容易く身体を隠せた。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
私達はしばし待った。火薬は六分間、赤い煙を噴き上げていた。
狼煙が消え、シキが次の火薬をズボンのポケットから取り出したその時、
「来た! 北東の空!」
誰よりも先にエナミがこちらへ向かって飛ぶ者の姿を捉えた。元狩人だっただけあって視力が抜群に良い。
「どっち? エナミ、どっちの管理人が来たのか判る!?」
私の目にも見えたがまだ豆粒状だ。個体の判別までは出来ない。
エナミは弓の弦に矢をつがえて答えた。
「あの身体つきは……アキオさんだ」
「!」
まず来たのはアキオだった。
私は両の手に十字手裏剣を一本ずつ握って岩の影から出た。
「私が近距離戦をやる! エナミとシキは弓で援護をお願い!!」
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