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「さぁてと、そろそろ本気出すか。えーっと、今はシスイと名乗ってるんだよな? シスイ、おまえの相手はこの俺だ。アキオの邪魔はさせねぇぞ」
ミユウは肩と首を回してコキコキと関節を鳴らした。それから大鎌を振りかぶった。
「オラよッ!!」
ミユウが大地に鎌を突き立てると、そこから衝撃波が発生して黄色い光が大地を走った。土と草が空中に舞い上がる。
「避けろ!」
叫んでシスイが横へ逃れ、後ろに居たエナミもシキに抱えられて横っ飛びした。
ズシュウゥゥゥ。
草が焼けた匂い。うわぁ。地面に大きな爪痕が刻まれちゃったよ。シスイが逃げたということは、コレはアキオの真空波よりも威力が高い技っぽい。ひえぇ。
シスイが私達へ怒鳴った。
「この変態は俺が押さえる! おまえ達はアキオに集中しろ!!」
「変態じゃねぇよ! 女装が趣味なだけだ!」
即座に言い返したミユウ。女装してるってことは男かい。
「人のこと言えんのかよ、エナミのストーカーが!!」
再度ミユウが鎌を突き立て、黄色い光が大地の表面を削りながらシスイに迫った。距離が開いていたのでシスイは楽々一旦かわしたのだが、光が進路を変えてシスイを追った。
「何だと!?」
追尾されたシスイは双刀を交差して防御態勢を取った。
ドォン!!!!
打ち勝ったのはミユウの衝撃波。シスイは弾き飛ばされて草の上を転がった。
「はっは────、ザマぁねぇなシスイくん! そんな体たらくであの人の後を継げると思うなよ!?」
ぷっと口の中の血を吐き出して、シスイはミユウへ毒づいた。
「曲げてくるとはな……。技もおまえのねじ曲がった性根と一緒だな」
「ああ? もう一回喰らうか? 土噛めよムッツリ助平」
この二人……異次元の強さなんだけど、口喧嘩がビックリするほどに低レベルだ。地獄の高位者同士なんだよね? 地獄の治世は大丈夫か。
「姉さん!!」
「うわっち!」
シスイとミユウの戦いに気を取られていたらアキオの真空波が飛んできた。大きく反ってブリッジの姿勢でスレスレを避けた。エナミがアキオへ射掛けて、次の攻撃を封じてくれなかったら命を刈られてました。
そうだ、相手を間違えるな。私の相手はアキオなんだ。本当の彼に会いたくてここに立っている。
ミユウのことをシスイに任せて私はアキオへ向き直った。
「キサラ、別方向から同時に斬り込むぞ!」
「了解!」
シキと私、二方向からアキオ目がけて駆けた。アキオ、今あんたのことも楽にしてあげるからね。
挟み撃ちになることを恐れたアキオが動いた。私へ向かって。彼の仮面はシキよりも私の方が弱いと判断したのだ。
ビュッ。
アキオの太刀が斜めに振るわれた。風圧で私の身体が後ろへ押された。
「踏ん張れ姉さん! 自分の間合いへ持ち込んで主導権を握れ!」
弓を構えたエナミの檄が飛んだ。接近戦となった為に矢を放てなくなった模様だ。
私の間合いか……。私が持つ脇差しはアキオの長太刀よりだいぶ短い。超至近距離まで行かないと駄目ってことだよね。
ガキィン!
音も無くアキオの背後から斬り掛かったシキが、半回転させたアキオの太刀に弾かれて大きく後ろへ飛んだ。仮面ではなくアキオの身体が自然に反応したと思われる速度だった。
「ち……。純粋な剣の勝負ではアキオに分が有るか!」
そう。だから私達は忍びの技を使う。アキオが嫌っていた戦法だけど。
「アキオ隊長、ごめんなさい!!」
私は腰のホルダーの十字手裏剣を四枚、順にアキオへ投げ付けた。手裏剣は簡単にかわされていく。だがこちらも当たると思って投げていない。アキオの注意を僅かな間だけでも私へ向けたかったのだ。
その数秒の間にシキが軍服のポケットから小さな瓶を取り出して、中身を口の中に含んだ。そして彼はもう一度アキオへ忍び寄った。
気配に気づいたアキオが半月斬りを繰り出したが、シキは身を屈めて刃の通過を待った。それから身体を伸ばし、アキオの顔目がけて口の中の液体を吹き出したのだった。
「!?」
毒霧だ。シキは優秀な毒使いである。仮面の開いた穴────目の部分に、普通の人間なら致死性の効力を持つ霧が侵入した。
「……ぐっ」
管理人の身体にも毒は有効だったようで、アキオは左手で目を覆い背中の翼を動かして上昇した。逃げるつもりだ。
ザスッ、ズドン!
空中のアキオは狙いすましたエナミの矢の餌食となった。連続で撃ち込まれて翼に次々と矢が刺さっていく。黒い羽と赤い血が飛び散った。
(やめて、エナミ、やめて)
戦いの時のエナミは私の知る優しい弟じゃない。このままではアキオが蜂の巣にされてしまう。そんな死は望んでいない。現世でもセイヤと言う弓兵に射られてアキオは死んだのだから。
剣士のアキオの生涯は、剣によって閉じさせてあげたい。
(私がやるんだ!)
五本の矢を翼に縫い付けられたアキオは飛行不可能となった。墜ちるように大地へ戻ってきた彼に私は接近した。エナミにこれ以上撃たせないように。
「隊長おぉ!」
ガキッ。
私の脇差しはアキオの太刀に止められた。今度は下半身に力を入れて風圧に負けなかった。
刀身と柄の間の金具、二人の鍔が合わさった。ギチギチと鍔迫り合い勝負となった私とアキオ。
ううううう。アキオの力が強い。でもここで力を抜いたら私の首が刎ねられるだろう。
私を助けようとしてくれた彼に、私を殺させてはいけないんだ。絶対に。
アキオ。アキオ。アキオ。
「アキオ隊長、大好きいぃぃぃ!!!!」
私が叫び、アキオの身体がわなないた。
「すまねぇ、アキオ!!」
シキが横からアキオに斬り付けた。浅かったが、避けようとアキオは一歩横へずれたので、太刀を握る手から力が抜けてしまった。
私はその好機を逃さなかった。
「わあぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
アキオの太刀を撥ね退けた脇差しで、彼の胸と腹の境目を水平に斬り付けたのだった。
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