鬼たちの引っ越し大作戦!

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 *** 「待って待って、マジで待ってええええええええええええええええええ!」 「え」  桃太郎がお供を引き連れ、鬼ヶ島に上陸したところまでは昔話と変わらない。  違ったのは――桃太郎がいざ参る!と刀を振り上げた瞬間、鬼たちが降参してきたことである。 「ちょっとストップ、マジでストップ!俺達戦う気ないし、つか戦う余裕なんかないまったくからちょっと話聞いてよおにーさん!」 「は、はあ……」  何やら様子がおかしい。自分の前に土下座する鬼たちを見て、困惑する桃太郎。自分が聞いていた鬼の姿と、随分と違うと思っていたところである。  確かに、村人たちから聞いていた通り、全員異様な赤い肌をしている。しかし筋骨隆々ということもなく、むしろ誰も彼も痩せた男ばかりだ。農具のようなものは持っているが、話に来ていたような金棒や刀のようなものは一切持ち合わせている様子がない。  そのくせ、どいつもこいつも桃太郎がやってきた直後に戦意喪失状態である。毎日のように船を襲って魚を奪い、村を襲っては畑を荒らし宝物を奪っていく――なんてことができるようには到底思えなかった。もっと言えば。 ――なんか、妙だぞ?  岩ばかりの鬼ヶ島には、僅かばかりの植物しか生えていない。家らしい家もなく、鬼たちは洞窟でどうにか雨風をしのいでいる状態であるようだった。僅かな土では、畑も本当に小さなものしか作れない様子。とても食糧が足りているようには見えない。  また、自分は鬼ヶ島の鬼についてこう聞いていたのである。 『奴らは大昔から鬼ヶ島に住んでいて、この村に住む儂らを苦しめておるのじゃ』  これが、村長の話。  だが、昔から住んでいる種族ならば、女子供が一人もいないのはあまりにも奇妙なことではないか。 「桃太郎さん、これ、なんか聞いてた話と違いません?」  犬がこちらを見上げて言ってくる。 「この様子だと、宝物ごっそり持ってるとかなさそうですよ?あわよくばこいつらぶちのめして宝物強奪してウッハウハ計画だったのに」 「うん、欲望に正直なのはいいけどちょっと黙ろうか犬……」  それやったら僕達の方が強盗だからね?とツッコミたい桃太郎。これでも常識は持ち合わせているつもりなのである。 「……とりあえず、話は聞いてやる。お茶くらい出して貰えるんだろうね?」  桃太郎がそう言うと、鬼の首領らしき男はとても困った顔をした。  理由はすぐわかる。  この島には、お茶っ葉さえ存在していなかったのだ。
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