鬼たちの引っ越し大作戦!

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 ***  事の発端は、漁村で発生した病だという。  人の肌が真っ赤に染まり、頭に角のようなものが生えてしまう病。それは、都で噂された鬼の姿にそっくりだった。漁村の人々は恐れおののいたという。この村で、鬼が出てしまった。この鬼たちを放置したら自分達も食われるかもしれない、と。  鬼たちはもちろん反論した。姿はこんなになったが、別に人間なんてマズそうなものを喰いたいとは思わない。見た目が恐ろしくなったとはいえ、別に厄介な症状が他にあるわけでもない。漁師としても農民としても十分に働けるし、村の役にも立てる。自分達を鬼と呼んで、差別するのはやめてほしい、と。  しかし、鬼を恐れる漁村の人々に彼等の声は届かなかった。鬼病にかかった者のほとんどが、身寄りのない若者ばかりであったというのも大きい。つまり、彼等を守る後ろ盾は何もなかったのである。  鬼たちは、漁村から船でニ十分ほどの鬼ヶ島に隔離されることとなった。  だが鬼ヶ島にあるのは岩ばかり。食料の類はない。最初は村の人間がちらほらと村の作物や魚を届けてくれていたんだが、それも段々と途絶えていった。当然、流刑された男達は飢えに苦しむことになる。そこで。 「俺らも、悪いとは思ってんだ」  しょんぼりと首領が肩を落とした。 「俺らがこんな姿になってよ。気味が悪いと思う気持ちはわかる。人喰い鬼かもしれねえと恐れるのもわかる。でもな……俺らだって人間なんだ。おまんま食ってかなきゃ生きていけねえ」 「なるほど。それでやむなく、船や農家を襲うしかなくなった、と」 「正確には、漁師たちと交渉しようとしたんだ。俺ら悪いことなんか何もしねえから食べ物を分けてくれってな。しかし、漁師のオヤジたちはちっとも話を聞いちゃくれねえ。派手に喧嘩になってその結果……オヤジたちを海に突き落としちまってよ」 「あー……」 「でもって、そのオヤジどもが、村の有力者だったもんだから……」 「あー……」  話の流れが見えた。  つまり彼等は、望んで強盗したことは一度もなかったのである。漁師たちに怪我をさせてしまったのは完全に事故だった。しかも、やらかしたのはたった一度だけ。  しかし、その出来事は村人たちに、鬼退治を考えさせるには十分だったというわけである。彼等は結託して、“鬼ヶ島にやばい鬼がいる!村人たちに乱暴する!タスケテー!”という噂を方々に流しまくったわけである。  で、それにまんまと吊られたのが、桃太郎だったというわけだ。 「……それ、村の奴らがゲスすぎない?うっわ、絶対助けたくないんですけど」
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