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やくそく
「咲ちゃん、来たよ。おじゃまします」
花崎さんが来た♪
いつものように私の部屋ではなく、ダイニングへと案内する。
「あれ?」
彼が中の様子を伺い、何かを疑問に思ったらしい。
「どうしたの?」
私が問いかけると彼は一人納得したように「ああ、そうか」と言って縁側へ行こうと促してきた。
──もしかして?
「咲ちゃん、シミさんが縁側で待っているようだよ」
──やっぱり。
シミさん。
私の家には地縛霊が住んでいる。住んでいるってのもおかしいのだけど、除霊しきれなかったから仕方がない。花崎さんは交信できるタイプだから会話が弾んでいるし問題はないっちゃないんだけどね〜。
おかげでイチャイチャするのも気になる始末。
「シミさん、来たよ。こんばんは」
──ゴ、ゴゴゴ。
家鳴りで返事をするくらい仲がいい。ま、私の父のような存在だからいい……ってわけじゃー決してない!
私はダイニングから離れられないのかと思っていたけど、わりと自由にやってるのよね、このシミさんは。
元はといえば壁にシミとして浮き出たアピールから始まったからシミさんなんだけど、大枚叩いて行った除霊も虚しく、同居を続けている次第。
「花崎さんは見えるからいいけど、うちでシミさん自由に過ごし過ぎじゃない?」
私は少し嫌味まじりのトーンで言ってみた。すると通訳が入った。
「咲ちゃん。アクセントが違うって言ってるよ。シにアクセントおいてくれって。僕の真似をすればいいんだよ」
あぁなんだろ。もやもやする。
「平坦にシミじゃなくてシにアクセントね」
あぁなんだろ。胃のあたりが熱くなってきた。
「分かったわ。じゃ聞くけどシミさん。卵焼き食べたら浄化くって話がまだいるじゃない。なんでかな〜。たくさん供物げたよね〜。それに姿見せない方がかえって気持ち悪くて嫌なのね。出ればいいじゃない」
軽く喧嘩腰になってしまって少し反省はあるけど、なんかね、図々しくて許せなくなってきちゃって。
「咲ちゃん、シミさんが姿を出さないのはね、約束なんだって。地縛霊の誇りをかけて誓ったことだから、ごめんねって」
そう詫びられてますのように花崎さんが通訳する。
そっか、約束か。え、いる? それ。それでも守り続けてるんだ。責めるようにしてこちらこそ……、
「祈祷師と結んだものは絶対だって言ってるよ。祓えきれなかったから、せめて隠れ続けるようにって約束……。見返りは【これ以上祓わない】」
──ゴゴ、ゴゴゴ。
ぼったくりやんけ!
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