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28話 花楓side(6) 同化
会社に行って車の中にいる湊が、多分金城さんと電話しているようだった。
「これから言うよ……気持ちは固まったから」
これから伝えてくれるのか……もう、盗聴とGPSはやめよう。そう思って切ってから、車に戻ると変なことを呟いていた。
「好きです……好きなんだ! これは僕のキャラじゃないし……う〜ん」
「何がキャラじゃないんですか」
「えっ……うわっ!」
あーもう、可愛すぎてヤバい。今のって俺になんて言うか、考えてくれてたってことでしょ。
嬉しくなって、助手席にいる湊に抱きついた。我慢できない、早く俺だけに気持ちを伝えてほしい。
「か! かえ!」
「……好きですよ。私は、湊さんが……湊さんは、私のことどう思ってますか?」
マジで湊の口から聞きたい。顔を近づけると、耳まで真っ赤になっていた。目を閉じていたが、返事を聞くまではしないよ。
「返事くれたら、キスするよ」
「……イジワル」
「フッ……イジワルでいいから、教えて」
こればっかりは、何を言われても……ちゃんと湊の口から、目を見て言って欲しい。わがままかもしれないが、不安なんだよ。
「……き」
「はい? もう一度」
「……好きです。僕は、んっ」
「正直に言えたから、ご褒美のキス」
キスをするといつも以上に、感じてくれていた。ヒートを起こしていて、俺もそれに当てられた。
家に帰ってから初めて体を重ねて、幸せな気分に浸っていた。可愛すぎて痛くないようにするのが、辛かったがお互いに満足できたと思う。
湊がスヤスヤと俺の胸の中で寝ていて、体についた体液を拭こうとした。しかし、しっかり抱きつかれていて離れることが出来ない。
仕方ないから起きるのを待ってから、二人でお風呂に入る。幸せだなと思って、後ろから抱きついてしまう。
ドライヤーで湊の髪を乾かして、自分はタオルで無造作に乾かす。なんでドライヤーしないのかと、純粋無垢な瞳で聞かれた。
適当に流しておいたが、自分の髪なんてどうでもいいからな。ドライヤーだって、湊のために買ったわけだし。
ドライヤーを所定の位置に戻してから、リビングに行くと爪を切ろうとしていた。出来なくて腕が震えていて可愛かった。
「切るの怖い……腕が震える」
「何してるんですか」
「うわあ!」
「人を見てお化けを見たみたいな、リアクション取らないで下さい」
爪を切ってあげて、あいつに切ってもらっていたことを知る。なんでも、やってもらっていたようだ。
自分でもどうかと思うが、子供みたいに拗ねてしまう。だって、君の初めては俺が全部体験させてあげたかった。
まあでも、これから思い出を作っていけばいいか。俺たちだけの物語を、俺が幸せにするんだ。
「終わりました。ご飯でも、何か」
「ちょっとこのままで……いさせて」
「……分かりました」
ご飯を作るために立ち上がると、後ろから抱きしめられた。俺が後ろから抱きつくのは、あったが後ろからは初めてだった。
俺が初めてをもらって、どうすんだよ……でもいいな。こういうの……幸せってこのことを言うのだと俺は実感した。
その数日後のこと。俺は予定があって、実家の方に赴いていた。予定が滞りなく済んだから、書物庫を漁っていた。
「……どこにあんだよ。ありすぎ」
「何、探してんだ?」
膨大な量の書物庫の中を探していると、いつの間にか来ていた花向兄に声をかけられた。
正直、話したくないな……変に好奇心旺盛だから、湊に興味を持たれると困るからな。でも仕方ない、自分で探しても見つかる気がしない。
「花向兄……マーキングに関する資料、知らない?」
「マーキングね……噂の恋人さんにか?」
「まあ、そんなとこだ」
そう言うとふ〜んと言って、一緒に探してくれた。数十分探して、やっと見つけた。埃がついていて、息を吹きかけてから見ることにする。
俺が椅子に座ってから見始めると、花向兄は何も言わずに書物庫を後にする。俺は特に気にせずに、見始める。
そこには俺が思っていたよりも、最悪で無慈悲なことが書かれていた。マーキングはΩにとって、どんな呪いや魔術の類よりも最悪で邪悪な存在である。
αにもΩにも生涯たった一人にしか、この契約は結ぶことができない。それだけでなく、αのフェロモンがΩの体に刻み込まれる。
「……なんだよ、これ」
正直見たくなかったが、湊にとっても俺にとっても大事なことだ。マーキングは上級αが、Ωに対してする絶対服従契約である。
一生縛り付けて、Ωの心と体を分離させる。Ωの体を永久にαの体に縛り付け、体の自由を奪うもの……。
Ωがαを好きならば、なんの問題もない。なんだ、それなら大丈夫だ。俺たちは相思相愛で、順風満帆だ。
続きを読み始めると、そう単純な話ではないようだった。恋愛感情がΩ側から無くなった場合、最悪心と体が分離して……。
――――自ら命を断つものもいる。
「んだよ、それ……」
それってつまり、もし今後……考えたくないが、湊が俺を心から拒絶した場合。危険なことになるって、ことだよな……。
解除の方法とかないのか……マーキングの解除の仕方は、絶対にないとされている。
「はあ……湊が俺を好きな理由は、マーキングの影響なのだろうか」
もしそうだとすると、かなりマズイ状況だろう。そう思ったが、Ωの心はマーキングでは縛れない。
そう書いてあって、ひとまずは安心する。しかし次の記述が、更に残酷な現実を突きつけてきた。
「同化……んだよ、これ」
同化とは、マーキングで契約を結んだαとΩが一心同体になること。お互いの心の中にある隠された真実までも一緒になる。
早いもので半年、遅いもので三年かかるとされている。Ωがαに恋を自覚した瞬間から、同化が始まり引き返すことができない。
マーキングの解除はできないが、Ωが恋を自覚する前に離れた場合。一ヶ月ぐらいで、同化の効果は自然消滅する。
ただし、一度でも自覚してしまった場合。もし気持ちがなくなった時に、Ωの肉体と魂が分離する。
「つまりは、湊の心が砕けるってことか……取り返しのつかないことをしてしまった」
湊と俺の深層心理までもが、一緒になり結合される。つまりは、半年か三年以内には……完全に同化が完成されている。
これは何があっても、湊には教えれないな……知らなかったとはいえ、とんでもないことをしてしまったようだ。
これは何があっても、一生かけて……湊を守らなくては、いけないと言うことか。覚悟なんてとっくに、出来ていたつもりだった。
湊のことが大事で大切で、この世界で唯一無二の存在である。それは揺るがない事実で、これからも変わることはない。
でも湊はどうだろう……怖い、湊を失うことも……湊の心が壊れてしまう可能性も……。
絶対に嫌われるわけには、いかない……喧嘩もしないようにしないと、もし嫌われてしまったら俺は絶対に自分が許せなくなってしまう。
「小笠原に酷いこと言って、自分はこのザマかよ……マジで、ダサすぎるだろ」
それでも後ろは振り向かずに、今は湊だけを愛していく。何があっても、湊のことだけは守り切る。
例え俺が怪我しても、絶対に守り抜く。俺がこれからできることは、一生涯かけて湊の心と体を守りぬくことなのだから。
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