20話 やっ……めないで

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20話 やっ……めないで

 キスされているだけでなく、スーツのボタンも外されていく。ワイシャツ越しに、胸も触られた。  優しいけどいやらしい手つきに、僕の体はビクンっと反応する。変な声が出てしまって恥ずかしい。  それに確実に、ヒートが始まっている。僕を見る花楓さんの目つきが、オスになっているのが分かった。  そんな時だった。会社の入り口から、社員が数人出てきた。僕は我に返って、少し体を押した。 「湊? どうし……あー、そういうことか。ごめん、シートベルトして」 「う、うん……」  僕の頭を撫でてシートベルトをしたのを、確認してから車を発進させる。運転する横顔を、マジマジと見つめる。  本当にカッコよくて、少しイジワルだけど……でも、普段の社長の姿もカッコよくて紳士的だ。  だけど僕だけに、見せてくれるオスの部分も嬉しいと感じてしまう。それはそれとして、これは付き合っていることになるのだろうか。  花楓さんは僕のことが好きで……僕も自分の気持ちを伝えて……ちゃんと伝わったことになるのだろうか。 「う〜ん」 「帰ったら、しっかりと話しましょう」 「は、はい……」  話って付き合うとかかな……付き合うって、花楓さんとか……チラッと見てみると、そこには誰もが振り向くであろう美貌の持ち主がいた。  Ωじゃなくても男性であっても、見てしまう高嶺の花。上級αとかではなく、この人自身の魅力が人を寄せ付ける。  やっぱり気になってしまう……日本じゃ知らない人がいない財閥の御曹司……そんな人が、どうして僕なんだろう。  そう思っていると、急に顎を掴まれてキスをされる。激しいのじゃなくて、優しく触れるだけだった。 「物足りないって顔してる」 「し……してな」 「大丈夫、続きは部屋に行ってから」  耳元でそんな風に、囁かれて体の体温が急上昇していく。手を握られて車から降りて、僕たちは何も言わずに家に向かう。  そこで僕は気がつく……蒼介と正式に別れたから、ここが正式に僕の住む家になった。僕の帰る場所はここなんだ。 「みな……なんで、泣いて」 「分かっ……分かんないっ……止まらない」  家に帰ってそこには、花楓さんがいてくれて……こうして優しく抱きしめてくれて、優しく微笑んでくれる。  僕たちは玄関で靴を適当に脱いで、獣のようにキスをする。舌を絡ませて、お互いの唾液が口の中に入ってくる。 「はっ……んっ……かえ」 「んっ……ふっ……みな……と」  左手で腰を支えられて、右手で頭を支えられていた。優しくしたと思ったら、今度は荒々しくされる。  あまりの気持ちよさに、僕は全身の力が急に抜けてしまった。抱きしめられて、そこで息の荒い花楓さんがラットを起こしているのに気がつく。  柑橘系のいい香りがして……途端に嬉しくなってしまう。するとそのまま抱き抱えられて、寝室へと連れて行かれた。  ベッドに優しく寝かされて、スーツを脱がされた。ネクタイを解かれて、ワイシャツのボタンを外された。  そして首元にキスをされて、少し痛かった。そしてそこを舐められて、変な声が出てしまう。  聞かれたくなくて、口元を両手で隠す。しかし直ぐに花楓さんに、両手を頭の上に持っていかれ優しく押さえつけられた。 「声……聞きたい」 「やあっ……はずか……」 「じゃあ、止める?」 「やっ……めないで」  そう言うともう一度、首筋を舐め始める。僕たちの甘い声が響いて、体が更に熱を帯び始める。  突如、僕の手を押さえていた手を緩めた。見てみるとスーツを脱いで、ネクタイを外していた。  ワイシャツを脱いで、鍛え抜かれた肉体美がお出ましになる。イケメンはどんな時も、イケメンなんだなと思った。  その姿がカッコよくて、つい見入ってしまう。そこで少し我に返って、僕は大事なことを聞こうとした。 「かえ……でさんは、僕とその」 「ベッドの上では、花楓って呼んで。湊……」  耳元でそんな風に甘い声で囁いて、余裕のない顔をしないで……。それでも僕は、改めて一番大事なことを聞くことにした。 「花楓はその、僕とつきあっ……その」 「……湊は俺のこと、好きなんでしょ」 「うん……好き」 「じゃあ答えは決まってんじゃん」  そう言って左手の薬指にキスをして、僕の目を真っ直ぐに見つめる。そして優しく舐め始めて、僕の欲しかった以上の言葉をくれる。 「結婚を前提に俺と付き合ってほしい」 「けっこ……」 「嫌なのか?」 「い……やじゃない……うれ……しい」  結婚ってそんなに、簡単に言わないでほしい。まだ僕たちは出会って、そんなに経っていない。  だけど…嬉しいよ。本気で言ってくれていて、僕のこと好きって言ってくれて……自然と涙が出てきてしまう。  ほんと僕って泣き虫だ……そう思っていると、僕の目元を舐めた。僕が泣き虫なら、花楓はキス魔だ。 「で? プロポーズの返事は?」 「つっ……分かっている癖に、イジワル」 「ちゃんと言ってほしい」 「……僕も花楓と結婚したい」  僕が目を真っ直ぐに見て微笑みながら言うと、嬉しそうにキスをしてきた。両手を繋いで、何度も優しく労わるようなキス。  気持ちよすぎて自然と、声が出てくる。僕たちの甘い声と、リップ音が寝室に響き渡る。  キスをしながら今度は、僕の右胸辺りを弄り始める。一番触って欲しいとこには、直接触ってくれない。  物足りない……もっと刺激が欲しい……思わず僕は自分で触ろうとするけど、花楓によって阻止されてしまう。 「触って欲しいなら、そう言って」 「つっ……ちがっ……んっ」 「へー、じゃあ触らなくていいの?」 「イジワル……」  僕がそう言うとより一層、恍惚な表情を浮かべている。マジで……イジワルだ……。でも触って欲しい。 「触って……僕の胸を……もっと」 「つっ……煽るの上手すぎ」 「なに、言って……あっ……んっ」  触るだけじゃなくて、右胸に吸い付いてきた。左胸は手で弄っていて、より一層刺激が強くなってくる。  僕の甘い声と水音が響いて、耳に入ってくる。僕の体がビクンと跳ねると、そこでやめてしまう。 「もっ……と」 「大丈夫……もっとね」  イタズラな笑みを浮かべると、今度はベルトを外し始める。一気にズボンを下ろされて、その辺に投げ捨てられた。  思わず手で下半身を押さえて、見えないようにした。恥ずかしい……だって、見なくてもかなり主張しているのが分かる。  全部の熱がそこに集中している……そう思ったら、途端に恥ずかしくなってしまう。すると手を退けられて、下着越しに触られて舐められた。  やっぱ、変な声が出てしまって……そんなことよりも、快楽の方が勝ってしまってしまった。
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