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31話 デザート
どうしたんだろ? そう思って見つめていると、急に引き離された。耳まで真っ赤になって、左手で口元を隠していた。
「こ、この近くなので……向かいましょう」
「う、うん? 分かった」
それから変に緊張している彼の腕に、腕を絡ませて一緒に歩き出す。お店に向かっている道中、言葉はなかったけど幸せだった。
一駅分を歩いていくと、見るからに高級な会員制のバーに連れて行かれた。こ……こんな高級なところ、ドレスコードとかないのかな。
思わず彼のコートの裾を掴むと、彼がにニコリと微笑んでいた。なんかとてつもなく嬉しくて、体を密着させる。
すると店員さんから、ニコリと微笑まれたから僕は咄嗟に離れた。恥ずかしいな……そう思っていると、そのまま個室の方に連れて行かれた。
「うわあ! 凄い!」
「喜んでくれて何より」
中に入るとビリヤードやダーツが、出来るところみたいで豪華だった。僕は我を忘れて、歩き回ると彼に笑われていた。
あー、もう……そんな愛おしいものを見る目で、僕のこと見つめないでよ。途端に恥ずかしくなって、僕はやったことないけどビリヤードの棒を持つ。
これ名前なんて言うんだっけ? そう思っていると、腰を支えられて手を握られて耳元で囁かれる。
「これはキューって言って、こうやって使うんだよ」
「つっ……うんっ」
耳元で囁かれて、触られている箇所が熱くなっていく。色々と説明してくれているけど、全く話が入って来ない。
ヤバい……近い……息遣いが鼓動が、いつもよりも鮮明に感じられた。何かを言われていたが、完全にそれどころじゃなかった。
「なと……湊!」
「あっ……かえ……んっ」
後ろから抱きしめられた状態で、顎を掴まれてキスをされる。その青みがかった瞳に、僕だけが写っていた。
永遠にこのまま写っていてほしい。例えいつの日か、終わる日が来たとしても……彼は御曹司で、僕は只の一般人で……。
彼が本当に僕のことを、大事にしてくれているのは分かる。それでも不安になってしまう。
「湊……俺だけを見て、他に何も考えなくていいから」
「かえ……で……僕は」
そんなことを真っ直ぐに見つめられながら、言われたら信じるしかないじゃん。ズルいよ……。
自然と顔が近づいていてきたから、目を閉じると近づいてきたのが分かった。しかしその瞬間、コンコンとドアがノックされた。
彼はチッと舌打ちをして、僕をソファに座らせた。穏やかな笑みを浮かべて、ドアの方に向かって店員さんと話していた。
すると次々と豪華な料理が、ソファの前のテーブルの上に運ばれてくる。その料理の数々に、僕はゴクリと唾を飲み込む。
「ヨダレ、出てますよ」
「つっ……美味しそう」
「食べていいですよ」
店員さんが個室を後にしたので、僕は目の前にあったピザを口いっぱいに頬張る。チーズがたくさん乗っていて、のびのびになっていた。
美味しいんだけど、パクチーが乗っていた。食べれないわけじゃないけど、好みではないかな。
「美味しいですか? パクチー、苦手ですか」
「美味しいけど、どうして」
「表情で分かります。少し眉毛が動いたので」
どんだけ、僕に詳しいの? 若干怖いよ……だけど、僕のこと見てくれているんだな……って嬉しくなってしまう。
僕は恥ずかしくて、何も言わずに無言で食べ続ける。その間も、食べないで僕のことをずっと見つめていた。
「花楓は、食べないの?」
「見てるだけで、満足です」
「はい、食べて。ご飯も一緒に食べたほうが、美味しいよ」
「……天然のたらし」
僕が目の前にあったチャーハンを、スプーンで一口取った。そしてそのまま彼の口元に、持っていくとボソッと言われた。
僕がえっ? って思っていると、パクッと食べて顔を真っ赤にしていた。なんか、餌付けしてるみたいで可愛い。
それから僕たちは終始、和やかなムードで食事を楽しむ。そこで僕は自分のカバンから、誕生日プレゼントを取り出す。
「これ、プレゼント。お誕生日おめでとう」
「ありがとう、開けてもいいですか?」
「うん、もちろんだよ」
彼が丁寧に包装紙を取っていくと、現れたのは鮮やかな朱色のキーケースだった。僕も自分の黒色のキーケースを取り出す。
「キーケースですか」
「うん、その……あんまり使う機会ないけど、僕も鍵もらったし。花楓のやつ、だいぶ汚くなっていたから」
「そう言われると、そうですね。ありがとうございます。とても嬉しいです」
屈託のない笑顔でそう言われて、僕までも嬉しくなってしまう。キーケースにしたのは、汚れていたからと言うのが大きな理由。
もう一つは……前に使っていたのは、蒼介からもらったものだった。だから置いてきたから、欲しかったんだよね。
財布に入れとくのは、なんか危険だと思うし。そんなこと言わなくてもいいよね。傷つけてしまうかもだし。
純粋な目で嬉しそうに、鍵を全て移し替えていた。その様子が可愛くて、じっと見つめてくる。
「喜んでくれて、何より」
「湊が選んでくれたものが、嬉しくないわけないでしょ」
「つっ……そ、そう」
ったくこの人は……そんな歯の浮くようなセリフを、こんな甘い顔と声で言ってくるの止めてほしい。
身が持たないから……急に恥ずかしくなったから、立ち上がってダーツの矢を持って聞いてみる。
「ダーツって、どうやるの?」
「矢はこうやって持って、真っ直ぐに投げる」
「う、うん……あっ! 当たった!」
「クスッ……才能ありますね」
「んっ……そうかな」
よく分からないけど、ダーツするのに……腰を支えて体を密着させる必要あるのかな? 恥ずかしいけど、体温が伝わってきて落ち着く。
フワッと香ってくる柑橘系の、優しくて温かい香り。それにしても、密着させすぎじゃない?
「……帰ろうか、食べたくなった」
「デザート?」
「まあね……世界一のデザート、俺以外には食べさせたくないやつ」
耳元でそう呟かれて、体がビクンと跳ねた。心なしか僕の体を触る手つきが、いやらしく感じる。
僕にも食べさせたくないデザートなのかな? そんなに独り占めするような、美味しいものってなんだろ?
そう思って腕を絡ませて、タクシーで帰るとデザートの意味が分かった。玄関に入るなり、舌を絡ませるキスをしてきた。
「かえっ……んっ」
「最高のデザート、頂くね」
「んっ……そう言う意味」
腰を支えられて頭を撫でられながら、腰が砕けるような甘いキス。優しいかと思ったら、激しくされて力が抜けていく。
倒れそうになったところを支えられて、そのまま抱き抱えられた。落ちないようにしがみついて、ベッドに座らせられた。
「コート脱いで」
「……脱がして」
「クスッ……はいはい」
僕が腕を伸ばしてそう言うと、笑って脱がしてくれる。それはいいんだけど、手つきがいやらしい。
唇を重ねながら、優しく微笑まれる。二人分のコートをかけて、こっちに来てもう一度優しく唇を重ねてくる。
僕は首に腕を回して、何度も優しくそして激しくお互いを求める。僕が着ているパーカーを脱がして、首筋にキスして舐めてくる。
「んっ……」
「可愛い」
耳元でそう呟かれて、体がビクンと反応する。次の瞬間、ベッドに優しく寝かされた。
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