16時32分

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 三条 奏を初めて見たのは、小学校2年生の時。 駅近くにある大きな本屋でだった。 私は仲良しのミィちゃんと漫画の新刊を買いに。 100円玉を何枚も握りしめ、ミィちゃんとあれこれ言いながらレジに並んでいた時、 2人前に並んでいたのが、三条 奏だった。 周りの男子では見た事のない小洒落(こじゃれ)た服装で、小さな顔に整いすぎたパーツが埋め込まれている。 亜麻色の長めの髪からは恐ろしいほどのキューティクルが放出され、存在そのものが神がかって見えた。 『あの子、、、あの子すごく、、』 素敵なんて言葉では物足りなかった。 私の視線に気づいたミィちゃんが、同じように驚くかと思いきや、『あぁ、知ってる』とどこか大人めいた口調で答えた。 『知ってるの!?』 『うん。お姉ちゃんが言ってた三条って子だと思う。 普通の小学校じゃなくて、お金持ちの子が通う小学校の子だけど、カッコ良いって有名で、ファンクラブもあるみたい。スカウトっていうの?何回もされてるらしいよ。確かねぇ、うちらと同じ歳だった。 私ゃ興味ないけど』 ミィちゃんは今でもそうだが、この頃も男子とか恋愛に興味がなかった。 『、、どこに住んでるのかな?』 私は既に三条 奏から少しも目を離せなかった。 その頭の先から、足の爪先に至るまで、少しも。 『家の場所は知らないけど、同じ町内みたい。 またお姉ちゃんに何か知らないか聞いておくね』  肩時も目を離さない私に少したじろぎながらも、ミィちゃんはその日から大切な情報源になってくれた。 稲妻に打たれたような初恋。 その後、彼の家も判明はしたものの、 大きなお屋敷からの出入りはいつも、窓に黒いシートのかかった車。 本屋の奇跡以降、偶然会うこともなく月日は流れた。  そこから他の男子に心動かされることもなく、 ミィちゃん姉からの情報だけをひたすら食べ、食い繋いで来た。 そんな私に訪れた、高校受験という名の、千載一遇(せんざいいちぐう)のチャンス。 『太晴(たいせい)高校を受けるぅ!? 熱でもあるんじゃないか? ま、受験まであと2年あるから、その間に思い直すんだな』  中学の進路指導は、私の頭がどうかしたと思ったんだろう。 それは私の両親も例外じゃなかった。 太晴大学付属太晴高校といえば、偏差値70越えの 超難関校。 それも幼小中高の一貫教育(いっかんきょういく)であるその私立高に、高校受験で入れるのはほんのひと握りだ。 無謀だ夢だと私の周りはうるさかったが、 ミィちゃんだけは冷静だった。 『受かれば高校、一緒じゃないのは寂しいけど、 私ゃ親友としてあんたの恋を応援するよ。 恋はどんな逆境にも負けないってとこ、見せとくれよ。がんばんな』 そこから始まった三条 奏へと続く私の受験ロード。 彼と肩を並べるクラスメイトになるべく、 息をするのも忘れるほど勉強に没頭し、 髪を振り乱して英単語を覚えた。 そして訪れた奇跡の合格。 パックのいちごミルクでミィちゃんと乾杯したあの日を、私は忘れない。 だか始まった夢のハイスクールライフは、そう甘くはなかった。 味わう度に苦い。 よく吐き出さないなと思うほどに。  
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