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三条 奏を初めて見たのは、小学校2年生の時。
駅近くにある大きな本屋でだった。
私は仲良しのミィちゃんと漫画の新刊を買いに。
100円玉を何枚も握りしめ、ミィちゃんとあれこれ言いながらレジに並んでいた時、
2人前に並んでいたのが、三条 奏だった。
周りの男子では見た事のない小洒落た服装で、小さな顔に整いすぎたパーツが埋め込まれている。
亜麻色の長めの髪からは恐ろしいほどのキューティクルが放出され、存在そのものが神がかって見えた。
『あの子、、、あの子すごく、、』
素敵なんて言葉では物足りなかった。
私の視線に気づいたミィちゃんが、同じように驚くかと思いきや、『あぁ、知ってる』とどこか大人めいた口調で答えた。
『知ってるの!?』
『うん。お姉ちゃんが言ってた三条って子だと思う。
普通の小学校じゃなくて、お金持ちの子が通う小学校の子だけど、カッコ良いって有名で、ファンクラブもあるみたい。スカウトっていうの?何回もされてるらしいよ。確かねぇ、うちらと同じ歳だった。
私ゃ興味ないけど』
ミィちゃんは今でもそうだが、この頃も男子とか恋愛に興味がなかった。
『、、どこに住んでるのかな?』
私は既に三条 奏から少しも目を離せなかった。
その頭の先から、足の爪先に至るまで、少しも。
『家の場所は知らないけど、同じ町内みたい。
またお姉ちゃんに何か知らないか聞いておくね』
肩時も目を離さない私に少したじろぎながらも、ミィちゃんはその日から大切な情報源になってくれた。
稲妻に打たれたような初恋。
その後、彼の家も判明はしたものの、
大きなお屋敷からの出入りはいつも、窓に黒いシートのかかった車。
本屋の奇跡以降、偶然会うこともなく月日は流れた。
そこから他の男子に心動かされることもなく、
ミィちゃん姉からの情報だけをひたすら食べ、食い繋いで来た。
そんな私に訪れた、高校受験という名の、千載一遇のチャンス。
『太晴高校を受けるぅ!?
熱でもあるんじゃないか?
ま、受験まであと2年あるから、その間に思い直すんだな』
中学の進路指導は、私の頭がどうかしたと思ったんだろう。
それは私の両親も例外じゃなかった。
太晴大学付属太晴高校といえば、偏差値70越えの
超難関校。
それも幼小中高の一貫教育であるその私立高に、高校受験で入れるのはほんのひと握りだ。
無謀だ夢だと私の周りはうるさかったが、
ミィちゃんだけは冷静だった。
『受かれば高校、一緒じゃないのは寂しいけど、
私ゃ親友としてあんたの恋を応援するよ。
恋はどんな逆境にも負けないってとこ、見せとくれよ。がんばんな』
そこから始まった三条 奏へと続く私の受験ロード。
彼と肩を並べるクラスメイトになるべく、
息をするのも忘れるほど勉強に没頭し、
髪を振り乱して英単語を覚えた。
そして訪れた奇跡の合格。
パックのいちごミルクでミィちゃんと乾杯したあの日を、私は忘れない。
だか始まった夢のハイスクールライフは、そう甘くはなかった。
味わう度に苦い。
よく吐き出さないなと思うほどに。
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