エピローグ

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エピローグ

 階段を駆け下りてきた七瀬はいつになくハイテンションだった。 「もしかして、壮馬も?」 「え?」 「壮馬も、なにか思い出したの?」 「思い出すって……?」  沈黙が続いた。  七瀬の笑顔に胸がドキドキして声にならなかったからだ。  だって、今朝見たあの夢の中で、七瀬がこんな顔で喜んで笑ってくれていたから。  バカみたいな今朝の夢の話、俺も伝えていいだろうか。  迷いながら口を開こうとしたら。 「や、ウソ、ウソ。前世とか、冗談だから!」  無理に笑ったような顔をした七瀬の目が潤んでいく。  咄嗟に手を伸ばし、手の平で七瀬の大きな目から零れ落ちそうな涙を拭う。  こんな顔はイヤだな。  七瀬にはずっと笑っててほしい。  あの夢のように、俺の隣で。 「七瀬、俺の話、笑わないで聞いてくれる?」 「壮馬の話……?」  何から話そう。  きっとあれは、十年くらい先の未来のことなんだ。  桜の花が舞い散る、七瀬と初めて出会ったあの場所で。  白いウェディング姿の七瀬が、泣きそうな顔で嬉しそうに俺に笑いかける夢を見たんだ。  それから少し時間が経って、俺と七瀬に似た子供が三人も元気に走り回ってたかと思うと、また時間が流れて。  今度は婆ちゃんになった七瀬と手を繋ぎ、川沿いの桜並木をゆっくり散歩しててさ。  それが幸せで、本当に幸せで。  婆ちゃんになった七瀬は、笑顔で俺にこう言ったんだよ。 『また次もここで会おうね』って。  まるで現実に起きたことのように、あまりに鮮やかな夢で、目が覚めてからもずっと幸せな気持ちになって。  これはきっと予知夢かもしれない、いや予知夢だろと勝手に確信して。  そして思い出したんだ、七瀬が前世を覚えているって話を。  だとしたら、俺が未来を見れるってことが、あってもいいんじゃないかって。  七瀬なら、このバカみたいな夢の話を、笑わないで聞いてくれるかな? 言ってもいいだろうか? 「壮馬? なんか具合悪い? 顔色が」  不安になって言い出せずにいた俺を見て、七瀬が首を傾げた時、構内に雪崩れ込んできたのは桜の花吹雪。  駅の中で舞い上がった大量の花びらに、皆足を止め見上げている。  その景色に驚いて七瀬と二人、顔を見合わせて、あの日初めて出会った時のように笑った。 「壮馬、髪に花びらついてる」  背伸びして、俺の髪につく花びらをとってくれようとした七瀬のことを、愛しいと思った。  ああ、そうだ。  七瀬のこの笑顔が、最初から。 「俺、ずっと七瀬のことが――」  黙って聞いていた七瀬が、また泣き笑いしてた。
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