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七瀬
初めて、その夢を見たのは何歳の頃だったんだろう?
物覚えがついた頃には、私の中には色濃く根付く思い出のようになっていた。
だから、だからね?
「七瀬、どうしたの?」
立ち止まった私に、ママが首を傾げる。
引っ越しトラックと共に先についたパパを追いかけるように、ママと私は電車で三つ目の駅で降りて、手を繋ぎ新しい家を目指していた。
ああ、そうだ。この場所だね。
やっと私、帰って来れたんだね。
はらはらと舞う桜の花びらや、その向こうに見える丘も、なにも変わっていない。
川沿いの桜並木、見覚えのある景色を見つけ、小学一年生になる私は、感動のあまりママの手を払い駆け出した。
「七瀬、走らないで! 迷子になっちゃうよ!」
川沿いの土手の上、舞い散る花吹雪と戯れるようにその周りを走り、大きな一本の桜の木で立ち止まる。
久しぶり、私のこと覚えてる?
桜の木が話せるわけないのに、覚えているよと言ってくれているみたいで嬉しくて。
桜の木に、ただいまと小さくつぶやいて抱きついた時。
ヒョコリと、幹の向こう側から顔を覗かせた、自分と同じくらいの男の子と目が合った。
『いつか、きっと今度は僕ら自由な世界で。その時は、きっとここで』
微笑んで旅立って行った、彼の澄んだ目にそっくりな男の子。
飛行機乗りになって、遠い空の向こうへ行くのだと誇らしげに語ってくれた彼に。
霞みがかった春の少しくすんだ色をした青空に、飛行機雲を見る度に。
ずっとずっと遠い海へと向かって行く、あなたを想って泣いたあの日も、こうして舞っていた桜吹雪。
やっと、やっと、また会えたね。
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