七瀬

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「絶対、絶対、母さんに言わないでよ? 昨日の算数のテスト、八点だった! ヤバイよね」  ワハハと笑う壮馬にため息が出た。  だけど、私の秘密を聞いたら、壮馬だってきっと思い出してくれるんじゃないかな? 「ナイショだよ……、絶対にナイショね」  キョロキョロと周りを見渡して誰もいないことを確認して、それでも中々言い出せずにいた私に。  秘密は守るとばかりに差し出された壮馬の小指に、しっかり自分も小指を絡める。  大事な大事なことだからと、壮馬にだけ聞こえるような小さな声で。 「私ね、前世のこと覚えてるの」  壮馬の顔が一瞬無表情になって首を傾げるのを見逃さなかった。  あ、絶対これは理解してない顔だ。  算数のテストの時と同じ顔をしていることに、ガッカリしたけれど気を取り直して、もう少しだけヒントを与える。 「昔ね、大事な約束をしたの。ここでまたいつか会おうねって」  大きな桜の木の下、舞い散る花吹雪の中で祈るように呟いた。  そしたら、壮馬は。 「で、会えたの?」 「会えた、よ?」  会えたんだよ、わかってないの?  ねえ、壮馬!  急かしてしまいたいのに、彼はこう言ったんだ。 「ふ~ん、すげえなあ」  歯が抜けたばかりの間抜けな顔でニカッと笑ったんだ。  あの何とも言えない気持ちに名前があったこと今ならわかる。  虚無っていうんだろうな。  私だけが覚えていて、壮馬は何も知らない、覚えていない。  前世のことも、交わした約束も。  私ばかりが、小さなころからずっと。  待って待って待ちくたびれてる感じがして、すごく悲しくなって、それきり前世のことを口に出すのは止めた。  止めても、夢を見る。  壮馬によく似た青年の笑顔を。  どんどん、壮馬がその笑顔に似てくるせいだ、きっと。
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