6、綾瀬M ②

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6、綾瀬M ②

綾瀬さんの病気は、双極性障害1型。それも、病相の殆どが混合様相だった。 元気が良すぎる「躁」と何もできなくなる「鬱」の境目がハッキリしない。要は混じっている状態だった。 アクティブに仕事をしているのに心の中は鬱状態。だから、アクティブに自死したりする。 病気の自覚が本人にも無かった。周囲の家族や友人からも、それは彼女の「性格」にしか見えたかっただろう。 面談が進むにつれ、最初の自殺企図を19歳で行っていたことが分かった。オーバードーズ。それも、売薬を大量に飲んで一日眠っていただけで終わった。その後、元気になり大学に通っていたという。 「今から思えば、体重の増減が激しいのも怪しいんですよね。躁の時は痩せる。鬱の時は太っていたみたいです。ガチギレして言いたい放題する、その直後に死にたいほどの後悔をしたり、そんなの当たり前でした。 仕事は大企業でも事務職ですからね。つまらなかった。そもそも私は画業に付きたかったのに、親から反対されて仕方なく文学部ですよ。親は叔父と私に似たところを感じていたのかも知れません。 入社してすぐに、労働組合に関わりました。最初は面倒臭いとしか思わなかったですよ。でも、あの腰に手を当てて反対側の手を握って振り上げる『団結、ガンバロー!』の世界にハマってしまいました。 20代は、ホントに何でもしました。上部団体の政党に入党しました。選挙の応援演説も街頭でしました。何も怖くありませんでした。 私は若くて『世の中を変えてやるんだ。』と真剣に思っていました。男女共同参画が私のテーマでした。 私の中の「何故?」が膨らんで弾けた時期です。男の扱い方も上手いと思います。いつも、私は仕事ができないふりをして、男を煽ていました。そうしないと仕事が回らないからです。 男性関係は、かなり滅茶苦茶です。今まで付き合った男性…何人かな?みんな妻子持ち。それを選んでました。私が主導権を握りたかったから。男って馬鹿みたい。みんな最初に言うんですよ。「愛しているけど、結婚はできない。」って。 そもそも、私は結婚したいなんて思ってないし、そんなこと言ってもいないのに。今好きだから付き合おうしか考えてないのに。 どうせ、楽しいのは3、4年で終わる。相手は社内や自分が所属している組織の外の人です。絶対、スキャンダルで身を滅ぼしたりしたくないですから。 男はバリバリの経営者側が多かった。それは、私が労働組合で戦う武器を手に入れるのと同じだったのかも知れません。 例えば、解雇について私の目で見た事例と同じ事例を経営側の彼らが話す。彼らから、いっぱい勉強させてもらいました。 私が勤めている流通業だけでなく不動産業、メーカーもいたかな。業界は満遍なくですね。でも、全員あちら側の男です。 中には倒産した男もいて、負債総額50億ですよ。その時になって妻に逃げられて、この私に「結婚できるよ。」と()かすんです。速攻、逃げましたよ。手切金を何で私が払わなくちゃならないのか分からないけど、200万で手が切れるならと払いました。そいつは私から散々借金をしていたんです。棒引きで別れる交渉をしました。あくまでも交渉ですよ。くだらない。 『お金を貸して。』 この言葉は別れの始まりです。 親は結婚もしないで、組合活動にのめり込んでいく私を見て「男だったらよかったのに!」と言いました。残念です。私は女です。 挙句に「政治家になるなら続けてもいい。」と言いました。 思ってましたよ。私だって。でも、それになるには党の中で、もう少しズルく立ち回らなけばならない。自分から言ってはいけないんです。周りが推してくれるように仕向けないと。」 葵は最初の数年で綾瀬Mから、彼女の人生の話を聞いた。 綾瀬は双極性障害1型を丸々体現したような人生を面談の中で語った。 乱れた異性関係。200万というお金の単位を全然気にしていない。まだ、不特定多数と関係を持っていなかったことがマシだ。乱費も払える範囲しかしていない。自身は借金もしたことがない。
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