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7、二番槍、三番槍、出仕す
アイは、高天原の武官だった。小隊の部隊長だ。気の色を読んで解釈する。法務の長、カイトも同じ神力を持つが、アイの方がその能力は高い。考えるより勘で動くタイプだ。そして自分は殆ど武力を行使しない。相手の気の色を見て危険を回避する。
「龍の島国」への出向は初めてだった。お役目の中でも1番キツいと言われている「田中家」に入る。
自分の姿は人間の「衣」を纏ったカイトには見えない。もちろん、人間である海斗の妻にも見えない。我らの本体は人間には見えない。
アイが出向先の田中家に入り込んだのは、中身はカケルだとほぼ確定の翔太が、1歳になる頃だった。
晃になっているヒヒカリにだけは見えているようだ。他国の者は「衣」を纏わずに龍の島国に存在している者もいると話には聞いたことがある。晃は見えていても見えてないふりをしている。それでも視線を感じる時がある。
ヒヒカリは、気の色を見せない。気の色を隠せるなど高天原ではあり得ない。
カイトは人間の妻、文恵と仲が良かった。カイトには高天原に妻がいる。妻、ウリのことを王宮内の宮仕えたち全員が同情している。ウリは、カイトが「龍の島国」のお役目についてから王宮に出仕していない。草原に一人座って泣いているという。
女王陛下は、自分の側近であるウリについて一言も話さない。気にしていないようだ。
陛下のせいで陛下の女官が泣いているのが分かっているはずなのに何も言わない。内閣の連中も何も言わない。アイぐらいの立ち位置の宮仕えは、女王に対して好意的な思いは抱いていない。お役目だから、仕事だからと割り切っている。
それにしても指揮官がイチキとは。
頭はいいのは認める。でも、協調性が皆無だ。隊を指揮するなど奴にできるわけがない。それも隊員の全員が「衣」を纏い、ただの人間になってしまう。このお役目さえ忘れ、勝手に動き出すのだ。我もだ。
「田中家」に入り込んで8ヶ月。そろそろ配置についた方がいいようだ。
翔太は、1歳8ヶ月になるところだ。今のところ普通の子供だ。
さぁ、「衣」が来た!入るぞ!
アイは、文恵の腹の中に入った。出来立てホヤホヤの受精卵の分割が進む前に入る。人間の気とバトルになることもあると話に聞いていた。小さな一つの細胞の人間の始まり4分割までが勝負を決める。
アイは、その9ヶ月後、長女として海斗の第二子になった。生まれた時、女の子という現実に気を失いそうになった。生後7日後、「護り珠」を掛けられた。命名された名前は「亜衣」だった。
三番槍、ホダカが「田中家」に入ったのは亜衣の誕生の1年後だった。
ホダカは、アイの小隊の部下だった。ホダカは「龍の島国」で自分の神力の剣が揮えるとワクワクしていた。
普通にカイトが父親で人間の母親がいて、恐らくカケルの翔太と亜衣が両親に世話されていた。
アイが女の子になったのに大笑いした。1番似合わねぇと堪えても堪えても笑いが込み上げた。
自分も女の子だったら、どうしよう………ま、女でもカッコイイかも。
ホダカは配置について、田中家の観察をした。
歩けるようになった亜衣が翔太を蹴っていた。いきなり、おもちゃを投げつけたり。転んだふりをして上に乗ったり、性格は変わらないんだなとホダカは苦笑した。
翔太は怒らない。そんな妹をニコニコして可愛がっていた。
それを見てヒヒカリが笑っていた。晃は怖いとホダカは思った。全部を知っていて笑えるその神経が恐ろしかった。
6ヶ月後、ホダカの「衣」の気配がした。その他の気配も。人間の気が側にいる。
勝負は一瞬だった。ホダカは剣を抜いて空振りをしたと同時に「衣」の中に入った。
4分割ギリギリだった。
4分割から着床までの1週間。ホダカは、この任務についた他の者たちと同じように人間の体の変化に身を任せた。妊娠15週になると胎児の指まで完成する。記憶はあっても声を出すことは出来ない。
時を待った。殆どを眠りに当てた。
9ヶ月の時が過ぎて、ホダカは自分を押し出そうとする力に耐えていた。産みの苦しみは、生まれる苦しみだった。
狭い狭い道を広げながら、ホダカは頭を前に進んだ。思っていたより、ずっと苦しい。。。田中家を繋いできた者たちは、全員コレを経験しているのか。
ようやく頭が出た。後はするりと外に出た。
お七夜が終わって、海斗は3番目の子となる次男の名を「穂高」と名付けた。この子にも「護り珠」を右手にかけた。
海斗が穂高を見ていると晃が隣に座って「色は?」と海斗に訊ねた。
「この子は銀です。亜衣は私と同じ鋼色。
凄く珍しい。翔太は平凡なのに。じいちゃん、翔太と亜衣の読心は?」
「普通の子供たちだよ。ご飯と両親が大好き。亜衣が翔太をいじめてるが、翔太は亜衣が大好きみたいだ。
安心しなさい。大丈夫だよ。ちゃんと育つ。三人とも。」
簡単に尻尾を出すものかと晃は思いながら翔太を見た。
こんな事になったのは、そもそも陽が事件に巻き込まれたからだ。
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