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出待ちができる日も月に1回か2回。それ以上は常識的に考えて無理だと一木は陽を諭した。
陽は、元々からイチキを信頼していた。陽が「けつじゃう」で考え込んでもイライラしながら待ってくれた。
イチキは「私の見地からでよろしいですか?」と必ず話す前に言う。この男柱は自分を過小評価している。
水川との縁を作る日、その日まで1ヶ月を切った。そのきっかけを最後の神力で作り出すと陽は決めていた。
その後は、記憶も神力も珠に縛られる。カケルもアイもホダカもカイトも皆既に縛られている。
ヒヒカリとイチキの二柱に我らを導いてくれと頼むばかりだ。
出待ちの最後の日の夕日が落ちていく。
「帰りましょうか。」と一木が言うと陽は素直に従った。手を繋いでマンションの前から離れた。
一木と陽が歩き出した反対方向から殆ど白髪の50代半ばの痩せた男が歩いてきた。
あの髪型………。
陽は涙で前が見えなくなった。一木の手をぎゅっと握って手を離した。そして、しゃがみ込んだ。一木はお嬢様の様子がおかしいのに直ぐ気がついた。
「どうしたんですか?」とお嬢様に声をかけた。
お嬢様は嗚咽を堪えて泣いている。「大丈夫ですか?」と50代半ばの白髪のおかっぱ頭ですごく痩せた男が立ち止まった。
コイツが浮気相手か……想像していたよりずっと……イケてない!と一木は思いながら言った。
「娘が、何か悲しいことを思い出してしまったみたいです。大丈夫です。」と5歳くらいの女の子を抱き上げた。
その瞬間、葵は聞香をした。
ヴァニラ ムスク!
「ちょっと待ってください!」と葵は咄嗟に叫んだ。
歳の割には元気だなと一木は心の中でニヤリとした。
そして、娘を下ろすと背広の内ポケットから名刺入れを出して名刺を1枚抜いた。
「ご縁がありそうです。どうぞ受け取ってください。」と言って名刺を差し出した。慌てて葵も2枚の名刺を出した。
女の子は大人二人のやり取りを黙って見ていた。
葵は一木が渡した名刺を見て立ちくすことしかできなかった。
「神澤工業株式会社 社長秘書 一木拓也」
葵は「神澤………。」と呟いた。
車の中に戻ると陽はイチキに「なんて書いてあるの?教えて。どうして2枚なの?」と、これもまたイチキが見た事のない表情と口調で訊いてきた。幼い………。
子供………女王の正体は子供だ!子供が頑張ってお役目を果たすために大人のふりをしているんだ。ずっと昔から。
だから、内閣の奴らも分家をやった奴らも女王を庇う。カイトも、恐らくウリも知っている。なんということだ!
一木は優しくお嬢様に説明してさしあげた。
「これはね、二つお仕事をしているということですよ。クリニックの院長先生と、大学の先生です。凄い方ですね。これは、お嬢さんが持っていらっしゃると良いと思いますよ。水川の日に無くしてしまう心配があったら私に預けてください。お嬢さんが忘れてしまっても私が教えてさしあげます。」
陽は、2枚の名刺を持ったまま車の中で眠ってしまった。
一木は、この幼い女王を自分も本気で支えることになるだろうという予感がしていた。
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