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子供二人は病院の待合室の長椅子に並んで座っていた。翔太は何も話さない。その二人を陽の母、詩織が見守っている。
いよいよ「護り珠」まで辿り着いたと陽は思った。隣にいる「多分カケル」を見た。ガッツリ珠に縛られている。
この大人しい上品なカケルは初めて見ると感心してしまった。少しは学んで反省したのかとも思う。それでも、裁断からは逃れられない。
もう、守ってあげることはできない。『囲み』よりキツイ状況だ。いつ本性を表すのだろう。
「ようちゃん、帰るよ。」と父が呼ぶ。
後何日、陽でいられるのだろう。ヒヒカリは、もう陽の「護り珠」を用意していることだろう。私は、また全部忘れる。あの人のことも全部。
「お父様。」と言って陽は立ち上がった。
その夜、文恵が神澤の名刺を持って大声を出した。
「すごい!こんな人と知り合っちゃったの?海斗。」
「凄いよねぇ。神澤工業の社長、調べたら来年度から会長になるらしいよ。」と海斗は普通に言った。
家族揃っての夕食の時間。海斗と文恵は、それを大事にしていた。もちろん、じいちゃんも一緒だ。
じいちゃんが翔太に「なんでバスの前に飛び出したんだ?」と訊いた。翔太は「わかんない。」としか言わない。
翔太は、自分が朝から変だったと感じていた。お父さんにごねたのも変だし、そんなに新宿に行きたかったんだっけ?何かに操られていたような気がした。ふと「お化け」という言葉が浮かんだ。浮かんだけれど、それを口に出してはいけないと言う意志のようなものが自分の中にあった。
翔太は自分が何をしたいのか本当は分からない。勉強はできるけれど、だからと言って家族と離れるのは嫌だった。こうやって、妹や弟と両親とじいちゃんと暮らしていければ、それでいいと思っていた。
お父さんが自分にだけ厳しいのは分かっていた。それは自分が後継だからだと思っていた。
翔太は時々、不思議な気分になることがある。
「やっと幸せを掴んだ。」そんな気分である。やっとの部分に胸が締め付けられる。苦しいほどの幸福感なのだ。
子供の自分が、こんな気持ちになるなんて変だと思いながら、何時もニコニコして妹と弟、お父さんとお母さん、じいちゃんを見る。
晃は、この翔太の純粋な幸福感を察知していた。
聞いていた「青の離宮」の主の姿とは、かけ離れている翔太の心を見ては混乱していた。
神澤翔の時も途中まではそうだったのだ。女と関わる年齢になって翔は変化していった。
「青の離宮」のカケルと陽が何時何処で知り合ったのかも、あの穂月でさえ知らない。
「恐らく空白の6年の間に……。姫様は絶対に口を破りませぬ。突然、高天原にご帰還あそばされ、その時には大きなお腹で2歳のヒカル様とカケルを連れてお戻りになりました。」
翔太は一体なんなんだろう?
翔太の心は透き通った玉のように純粋で美しいのだ。それが本体だ。
神澤翔は、思春期の頃から汚い気を纏うようになった。いつも汚い訳ではなかった。陽のことを想っている時、考えているときだけ透き通った玉のように光り輝いた。
二人が結婚してからは、その在処さえ見えないほど翔の心は闇の中に沈んでいった。
暴力と暴言。そして女だ。女が絡んでくると翔は別の者になる。
翔太は未だ8歳。今なら処分も楽だ。
でも、この水晶の玉の様な美しい本体を知っていたから、陽は、田中翔太を処分することを禁止しし、あくまでも「捕縛、裁断」と言い張ったのではないか。
私だって今は出来ない。このまま穢れることなく大人になってほしい。
恐らく、「思ひかまい」もその為に行われた。陽は、『囲み』の中でカケルを矯正するつもりだったのではないか?
カケルの本体まで見ることができる力を持つものは、私と陽しかいない。
もうすぐ儀式が行われる。どうするつもりだ?陽。
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