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一木はヒヒカリに尋ねた。「あの光は何なのですか?」
「あの方は太陽の神。陽の光に決まっている。普通の柱とは違う。取りかえが効かない存在なんだよ。女王は永遠にお役目から逃げられない。弟君の月の王も、海の王も。」
一木は、中身は子供なのに仕事を永遠にし続けている女王が本当に本当に哀れになった。
陽と晃は母家に戻った。一木は「車の中で待ちます」という神澤への伝言を晃に託けた。
一木は「けつじゃう」で女王に使い倒されていると思っていた。だが、自分には休暇がちゃんとあったのだ。週に1日。まとまった休暇も年に2回以上あった。自分は「けつじゃう」だけだったが、女王は内閣の連中のお相手もしている。分家の「リクルート」が候補を連れてくれば………それもやる。召し上げができるのは3柱だけ。それだって、ヒカル様は父親が「青の離宮」だと影口を言われて「龍の島国」の仕事ばかり押し付けられて殆ど居ない。
一木は「何も見えていなかった自分」を恥じた。
晃は帛紗に包んだ物を黒塗りの盆に乗せ陽と母家に戻ってきた。二人は、30分の間席を外していただけだった。
「やはり海斗、このお嬢さんには『護り珠』が必要だ。お前のお母さんもコレで命が救われた。お母さんが高校生の時の話を聞いているだろう?」
神澤哲郎と詩織は怪訝な顔をした。
「護り珠って何ですか?」と神澤が海斗に訊いてきた。
「本当かどうかわかりませんが、500年続くこの水川神社の直系の一族のみに与えられるお守りです。私のしているコレです。男は右手、女は左手にかけるのです。私の母は高校生の時、事件に巻き込まれました。母だけが助かったのです。ただ、外したら死ぬとも言われてまして……。なんか気持ち悪いでしょう?じいちゃん、変なこと言わないでよ。」
「よう、それ欲しい。ずっとつけてないとダメでも欲しい。お父様。ようは、お父様とお母様より長生きするの。」と陽は言うと帛紗ごと護り珠を掴んだ。涙をこぼして。
「お守りならいいですよ。」と神澤が笑って海斗に言った。
海斗は、それでも「その護り珠は管理しなくてはいけないんです。切れないように結構マメにチェックしないとダメなんですよ。最低でも1年に1回。成長期には、かなり頻繁に紐の調整をします。大変でしょう。」
海斗が渡さないと言えば言うほど、欲しくなるのが人間だ。
「じゃあ、この神澤哲郎、この私がこの神社の氏子になって、支援するでどうですか?」と商談になってしまった。
「いやいや、ご自宅は都区内でしょう?」
「ルーツは奥多摩です!」
「………いい加減にしないか。海斗。大事なのはお嬢さんが元気に大きく育ってくださることだろう。」と晃が呆れたように言った。
「ようは、ここが好きになったの。ここまで、一木に連れてきてもらうもん。」陽は帛紗を握って離さない。
海斗は全員の顔を見て、自分の敗北を知った。
「これはね、私が陽さんの手に掛けなくてはならないんだよ。」と海斗は言って陽から帛紗をもらった。
海斗はそれを盆の上に戻すと「着替えてきます。」と言って家の奥に入って行った。
15分すると海斗は差袴、狩衣、烏帽子まで被って現れた。手には尺を持っていた。
神拝詞を奏上すると、陽の左手に護り珠をかけた。
陽は大きく目を見開いた。
一木が車の中で社長とその家族を待っていると、陽が両手を両親に繋がれて戻ってきた。
「待たせたね。」と社長が言うと一木は「いいえ。寝てましたよ。」と言いながら陽の顔を見る。陽の左手首には「護り珠」が掛かっていた。一木と目が合うと陽はにっこり笑った。
もう、メンチ切って左の口角を上げることもない。全てを忘れた。ここにいるのは、雇い主のお嬢様だ。
そして、ふと思った。「龍の島国」のお役目は女王にとって休息時間なのではないかと……。違う。これからは、重罪を犯した柱の捕縛に向けて歩き出すんだ。
指揮官は一木拓也。私だ。
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