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11、神澤 陽(かんざわ よう)
陽は、大人しい性格だと両親からも父の部下、一木からも言われていた。
小さな頃の私は「ワガママで手に負えない幼児」だったらしい。その私も13歳になった。
私の太い眉をお友達が「どうして整えないの?」と訊くけれど、この眉はお父様とそっくりなの。大事なものなのと答える。
外で遊ぶのは苦手。勉強は普通にできる。普通。女子ばかりの白百合女学院に小学校から通学している。この学校はミッション系だ。
何故か、送り迎えの運転を一木さんがしている。お父様の職権乱用は酷い。それを言ったら一木さんは私設秘書になったのだそうだ。でも、都合よく会社の仕事もやらされている気がする。
「私の仕事内容は聞かないほうがいいですよ。」と一木さんも言う。だから、訊かない。
本当の友達は学校には居ない。本当の本当のお友達は奥多摩にいる。その子のお家は神社だ。
田中亜衣ちゃん。
私より一つ年上の女の子。私と亜衣ちゃんが好きなものは真逆だ。
私はお茶を立てる。亭主もできる。後は香道。どちらも「今、この時」の瞬間を楽しむものだ。
亜衣ちゃんは、とにかく気が強い。ずっと少林寺拳法をやっている。「陽のボディガードぐらいはできるよ。」と言う。「捕まるから寸止めな。」と言う。
亜衣ちゃんは、よく私の家にも来てくれる。時にはお父様とご一緒に。
亜衣ちゃんのお父様は「私のお守り」の点検にいらっしゃる。。その時は必ず装束も携えてらっしゃる。装束に着替え祝詞を奏上してから点検をお始めになる。玉を足したり紐を取り替えたりする時には私に必ず「私の護り珠を構成していた玉」を左手に握らせる。1番大きな玉だ。点検、補修が終わると亜衣ちゃんのお父様は祝詞を奏上する。これで終わりだ。
亜衣ちゃんは言う。
「本当!めんどくさ!だよね。お父さんね、凄くうるさいんだよ。ほぼほぼ毎日、チェック入れてくる。あのね、お父さんのお母さんが珠を抜かれて1時間もしないうちに死んじゃったんだって。非科学的だけど、気持ち悪っ!」
その亜衣ちゃんも律儀にお守りをしている。
私と亜衣ちゃんは育った環境も違う。同じ日本に住んでいるのに見えている景色が多分違う。
性格も違う、毎日会える友達ではない。それでも、亜衣ちゃんが私に1番近い所にいると思う。
私たちは、会うとずっと喋っている。月に2、3回で数時間しか無いけれど、報告会のようなもので、その内容は段々と広がっていく。
女の子同士にしかわからない秘密の話もする。亜衣ちゃんは一つ上な分私より大人に近い。少林寺で鍛えた身体はしなやかで、出るところは出ている。
陽は、少し躊躇いながら亜衣に訊いてみた。
「亜衣ちゃんは、もちろん生理あるよね。」
「アレは面倒臭いよね。お腹が痛くなる子も多いし。将来、赤ちゃんを産むためになら、その時だけでいいのにね。」
「亜衣ちゃん。私、まだ生理がないの。胸もペッタンコだし……学校ではね、みんなの話に合わせてるの。」
「ようちゃん。陽ちゃんは未だ13歳でしょう?個人差があるって聞いたよ。15歳、16歳でくる人もいるんだって。気にしないの!」
「うん。頭では分かってるんだけど、お母様が少し心配しているの。申し訳ないというか……私の両親、年寄りでしょ?孫も見せてやれないのかなって。」
「イキナリ話が飛ぶね。孫って何よ。今、孫ができたら大変だよ。そもそも生理より相手がいないじゃん。」と言って亜衣は大笑いした。
「そう言えばそうだわ。」と陽も可笑しくなった。
月に1度は陽の方から水川に赴く。その時は必ず一木さんが車で連れて行ってくれる。
陽の家は、なんかもう一木さんがいるのが当たり前になってしまっている。お父様は「一木!」とか「拓也!」とか書斎から呼びつける。土日にも一木さんが陽の家にいる時がある。
お父様は、一木さんのことを息子だと思っている節がある。
私も知っている。
私には2歳になれなかった歳の離れた兄がいたことを。
私に生理が来て大人になったら、早く結婚して孫をお父様とお母様に見せて差し上げるの。
相手は、歳が離れていても私のことを1番わかってくれる人。
その人は……。言えない。
水川の石段を私は自力で登れない。
一木さんは、私が小さな頃は私をおんぶして、今はお姫様抱っこして石段を登る。
一木さんは力強い。そして、大人だ。
私は、子供のような自分が早く大人の女性になりますようにと何時も願っている。
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