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1、葵の花
私は、君が「待っていて」と言ったので、殆ど「忠犬ハチ公」になっている。
あれから、何年経っただろう。
光は、無事に結婚できた。お嫁さんは、とっても良い娘だよ。
そして、なんと私には孫もいるんだよ。君も知らないうちに、おばあちゃんになっている。
少しは、焦って早く帰ってきてくれないかな。
君が出かけてから、私は髪型を変えたんだよ。
君と出会った頃の髪型。。。流石に最初は周りの皆んなからドン引きされた。
今は既に個性に昇格している。
先日、昔付き合っていた瑠美と再会したんだ。
謝って、謝って、謝り倒したら、「あんた、夢でも見てたんじゃないの?そんなことあったっけ?」と言ってくれた。
瑠美には、未だ高校生と大学生の息子さんが2人いると言っていた。旦那さんは私の母校の准教授だそうだよ。
昔は絶対に瑠美を入れなかった私のマンションに、瑠美と瑠美の友達2人を招待したんだよ。
飾ってある大量の写真を見て3人から「早川、殆どキチ」と言われちゃった。
でも、瑠美だけが微妙な顔をしていた。そりゃそうだ。瑠美が前に見た写真の人物とは別人にしか見えないからね。
もう、いいんだ。ずっと君を待っている。君が煙になって空に行ったあの日に決めた。
いくらなんでも私が死ぬときには、迎えにきてくれるつもりでしょ?
私は、田中の人間じゃないから少し長生きしてしまう。君の方こそ「帰ってくる。」と言った言葉を守ってくれないかな。
精神科医である私を、必要としてくれる患者さんは少なからずいるんだよ。
君が迎えに来るまで、私は私の責務を全うする。
医者である時の私は、君の事など完全に頭からすっ飛んでいる。
忘れていると言ってもいいくらいだ。
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