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当然なのかもしれないが、約束は守られた。
それがわかったのは、終業式の朝だった。クラスの目立つ人たちがかわるがわる話しかけてきた。
「鳴海さん、さっき聞いたんだけどC県に引っ越すんだって?」
「え? あ、うん」
「ふーん」
今日初めて話す人ばかり。
「鳴海ー!」
教室のドアのところから私を呼ぶのは詩ちゃんしかいない。クラスが分かれてからも、時々こうやって顔を出してくれる。
「おはよ。引っ越しのこと、さっき千帆に言っちゃった。大丈夫だった?」
千帆さんというのは、詩ちゃんの大切にしている友達。顔が広い人なので、一気に広まるのは納得だ。つまり、昨日まで知らなかったという証明にもなる。
私は罵詈雑言を浴びたくないだけので、このまま終業式と学活を終えられれば問題ない。一方的な要望にここまで応えてくれたら充分だ。
言ってみるもんだな。正直、ちょっと驚いている自分がいる。
「うん。約束守ってくれてありがとう」
「そんなのいいよ。これ連絡先。放課後は部活があって会えるかわかんないから、今渡しとく」
「ありがと! 家に帰ったら、登録するね。あと、私も今のうちにこれ渡しとく」
詩ちゃんからの手紙と、私とお揃いで購入したハンカチを交換する。
詩ちゃんは、遠くへ引っ越した私と連絡を取りたいと思ってくれているんだ!
そう思ったら嬉しくて、もう終業式も学活もどうでもよくなった。適当に流してさっさと帰ろう。私も早く詩ちゃんに連絡先を伝えたい! もう全てが上の空だ。
学活を終えたら一目散に帰宅することにした。教室を出ようとすると、クラスの男子と目があった。
「鳴海、元気でな」
自分の目と耳を疑った。男子が爽やかな笑顔で私に話しかけている。
「え、あ、うん。ありがとう」
混乱しながらもなんとか返事して会釈するとその場を後にする。
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