女性を魅了するだけの簡単なお仕事

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『休憩時間は社員の自由時間になりますので、会社からは強制できませんが……』 「ということは、水沼さんをランチに誘うくらいなら問題ないですか?」 『水沼が了承すれば特に問題はないかと思いますよ』  結城はそう言った後、小さく「まぁ、彼女はあまり誰かと行動を共にすることに積極的ではありませんが」と付け加えた。  恭祐は「作戦を考えます」と言って電話を切ると「さて、うちの(カツラ)の出番だな」とハンドルを握りながら鼻歌交じりになる。 「あの……、僕の能力って女性に好意を持たせてこちらの要望を聞いてもらったりするくらいで、そんなに大したことは出来ませんけど」  水沼をランチに誘うくらいは能力を使わずともなんとかなりそうだが、踏み込み過ぎればストーカーを産む。  大雅は相手を狂わせた後に正気に戻す手段を持っていないため、身元が知られた相手を魅了するのは危険性が高い。 「水沼さんから話を聞き出すのが狙いですか? 槇田社長との関係を認めさせるとか?」 「いや、そんなに急がなくていい。プライベートや交際関係などをそれとなく聞いてくれたら作戦を立てるつもりだ」 「それなら、所長がやればいいじゃないですか……誘うくらいならやりますが、話の時は隣にいるくらいで良いですよね?」  大雅がうんざりしながら言うと、「(カツラ)には分からないだろうが、これはお前にしかできない」と深刻な声が車内に響く。 「所長だってそれなりに恵まれた容姿なんですから、大人の余裕で乗り切ってくださいよ」 「水沼は打ち合わせの時に俺の顔なんて全く見ずに、お前をずっと見てたじゃねえか」 「いや、それは単に目の前に僕が座っていたからで」 「槇田社長も割と目がクリっとしたタイプだよな??」 「いや、同じ系統ではないと思いますが??」 「一生のお願いだ、(カツラ)くん。水沼さんと仲良くなって連絡先を交換してくれ」  恭祐が一生の願いを使ってきたが、大雅はなぜここでそんなに大袈裟になるのかと怪訝な表情を浮かべる。 「それだけでいいんですか? じゃあ、僕用の携帯電話を買ってください」 「よし。明日の朝、ちゃんと契約して持たせてやる」  不本意だったが、水沼と連絡先を交換する条件で携帯電話が手に入るのなら安いものだ。 「なんでこんなことが一生のお願いなんです?? 所長、女性が相手でも普通に話をしてるじゃないですか」
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