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「何って……助手として雇われただけです」
「こんな若くてイケメンを助手に……」
「えっ」
表情を曇らせながら、たけよは鏡の前に置かれた椅子をくるりと回し、大雅に座るように促す。
恐る恐る椅子に腰を下ろすと、たけよは大雅に白いケープをかけて椅子を回し、長い髪に櫛を入れた。
「あの、『たけよさん』は所長とどういう……」
「どういう関係に見える?」
髪をすく手がぴたりと止まり、鏡越しに笑顔が向けられる。何を言っても裏目になりそうで、とりあえず首を傾げておく。
「恭祐は恩人。昔から女っ気がないからそういうところも好きなわけ」
「ああ……」
「でもまさか、こんな男を連れて来るなんて……」
「いや、僕はそういうんじゃありません」
恭祐の前で態度が違ったのはそういうことか、と大雅は必死に自分の立場を否定しておく。ハサミを持たれて背後を預けているこの状況では何をされるか分かったものではない。
「僕は、拾われたっていうか……」
「拾われた?」
「自殺しようとしてたところを、通りすがりの所長に止められて」
周りに誰もいないとはいえ、大雅はこんなことを言うはずではなかった。
たけよは何も反応せず、髪にハサミを入れ始めている。長い髪がパラパラと白い床に落ちていった。
「ほんとに恭祐は、後先考えないんだから……」
背後に立つたけよは大雅のこめかみを左右から押さえ、鏡越しに見据える。
「恭祐が拾ったんなら、いけ好かない男だろうとワタシの養子みたいなものね」
「……いや、そんなことはないと思います」
「大丈夫、あんたはタイプじゃないから!」
「知りませんよ!」
やっぱり美容室は鬼門だ、と大雅はうんざりする。
これまでは女性関係のトラブルばかりだったが、相手が男でもろくなことが起こらない。
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