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「お、やっぱり短い方が似合うな」
声を聞いて、ようやくそれが恭祐だと分かった。
「髪もですが、さっきと全然雰囲気が違いませんか……?」
「さっきは渋谷に同化するために変装してたんだよ」
「変装?」
「普段はこうやってオフィス街に馴染む仕様にしてるが、日曜の宇田川町ではだいぶ浮くだろ?」
「確かに」
大雅は改めて恭祐の顔を見る。整っているが、特段目立つパーツがない。それが余計に特徴を捉えづらく、印象に残りにくいのかもしれない。
「お目目パッチリの桂は尾行には向かないが、事務所の業務とカウンセリングを任せたいと思っている」
「いや、僕にそんな専門的なこと……」
「うちの仕事はカウンセラーや弁護士からの紹介案件が多い。不安を抱えた依頼人が多いから、その顔で人を癒しながら話を聞いてやればいい」
大雅は仕事の話が専門外で、恭祐の話にうなずくことができない。
「所長は、ホームズみたいな仕事をするんですか? 事件を解決したり……」
「残念ながら日本の探偵はイギリスと違って逮捕権を持っていない。主な仕事は調査関連だ」
「え……? 調査にカウンセリングが要るんですか?」
「まあ、そのうち分かる。デニムで仕事は出来ないから、仕事用の服を買いに行くぞ。幸い、すぐそこに百貨店がある」
「……はい」
大雅の計画では既にこの世にいなかったはずなのだが、髪を切られてこれから必要な仕事服を買いに行くことになっている。
やっぱり生きるのは面倒くさいな、と事務所を出る恭祐に続きながら大雅は下を向いた。
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