探偵の仕事

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  *** 「それでは、こちらで失礼します」  恭祐がエレベーターの中から結城と水沼に対して頭を下げると、結城と水沼も「どうぞよろしくお願いします」と頭を下げて扉が閉まる。  恭祐と大雅を乗せたエレベーターはそのまま二人だけを乗せて1階に向かった。 「なんとなく分かったか?」 「槇田コンサルティングの社長を尾行して、怪しいところがないか調べる仕事ですよね?」 「そうだ。基本的に尾行は俺がやる。俺は眼鏡や髪型、なんなら上着を着替えるだけで別人になれる。加えて、人間の尻尾を掴むのが得意でね」 「……確かに、二日間で所長が3人居たような気がします。服装と髪型が違うだけで雰囲気が変わり過ぎというか……」  大雅は恭祐が自分を拾った理由が理解できなかった。  変装すらできない、探偵に向いているとは思えない大雅を掃除要員として雇うメリットはない。  エレベーターが1階に着くと、二人は駐車場用のエレベーターに向かって歩く。ビルの1階にはスーツ姿の男女が足早に行き交っていた。 「探偵で一番多い仕事は不倫の調査だが、うちはその手の仕事は請けていない」 「え、どうしてですか?」  すぐに地階行きのエレベーターに乗り込んで、恭祐は扉を閉めた。 「浮気調査なんか受けたら、ずっと女性の悩みを聞き続けることになるだろ」 「……まあ、そうなんですかね。旦那さんが浮気しているかどうかを疑いながら相談に来るってことですよね」 「不倫しているろくでもない男の報告をしなくちゃいけないんだぞ?」 「そうでしょうね」  エレベーターはすぐに地下2階に着いて扉が開いた。  恭祐の足音がコツコツと薄暗い駐車場フロアに響く。 「それが人助けだと分かっていても、裏切られて傷ついた依頼人をフォローする(すべ)が分からない」 「難しく考え過ぎじゃないですか? 今回の調査と大して変わらないと思うんですけど」 「大違いだ」  恭祐が遮るように言い切ったので、大雅はそれ以上何も言えなかった。  地下駐車場では声が周囲にまで響いてしまう。大雅は静かに恭祐の車に乗り込んだ。
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