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「お前、もしかしてその体質のせいか? 行くところは?」
「……は??」
「安心しろ。俺も似たようなものだ」
「いや、何が」
「俺も、色々持っている。『末裔』だ。だからお前のことが分かった」
スーツ姿の男は大雅が落とした鍵を拾いに歩いて行き、「屋上」と書かれた小さなプレートをつまんで鍵を鼻に近づけている。
「指紋も匂いもついてるし、訴えられたら終わりだ。逃げずに謝るだけで許してもらおう」
「……」
「『普通』に生きられないくらいで死ぬことはない。その能力を生かしてうちで働いてみないか?」
「……最初はみんなそう言って受け入れてくれるんだ。だけど、徐々に波紋が広がるように色々な影響が出てくる。誰だって、自分を狂わされるのは怖い。僕は人を狂わせて、周りに犯罪者を生むから」
男は大雅の元に戻ってくると、力なく座る大雅を上からじろりと睨んだ。
「ごちゃごちゃ言うな。その辺の人間じゃお前を持て余すのは当然だ」
「ごちゃごちゃ言ってるのはそっちじゃないですか」
「ああそうかよ。どうせ捨てた人生だろ。生まれ変わってみればいい」
大雅は何も言わず、反応もしなかった。
「これから俺のことは『所長』と呼べ」
男はポケットから黒い革の名刺入れを出すと、『不忍探偵事務所 所長 犬山恭祐』と書かれた名刺を大雅に差し出す。
大雅は長座のまま、左手で名刺を受け取った。
「ふにんたんていじむしょ、いぬやまきょうすけ?」
「『しのばずのたんていじむしょ、しょちょう』だ」
「いぬ……へえ……かわいっすね」
「かわいかねえだろ……。あと、俺は27歳だ。オッサン呼ばわりするな」
大雅は立ち上がり、デニムパンツを右手だけで払うようにする。
そして汚れを払った右手を一度見つめ、そのまま恭祐の前に差し出した。
「永禮大雅。ジュ―キューサイ、元モデルです」
「クッソ生意気な餓鬼じゃねえか」
「僕、性格あんまり良くないと思うんです、犬山さん」
「所長だっつってんだろ」
恭祐はきびすを返すようにして屋上の出口まで向かった。
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