初めての張り込み

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「これまで誰も雇わなかった俺が助手を雇って家に置いたりしたら、(カツラ)の素性に興味を持たれる。探偵業をやっている人間を相手にするなら親族だと言っておけば良い。苗字だって『犬山』で名刺も作れるし、怪しまれないだろ」 「だけど、そんなの人を騙すみたいです……」 「真実が話せないなら、辻褄を合わせやすい自然な嘘が必要なんだよ」  大雅は、初めて会った恭祐を思い出した。  自分の見た目ですら平気で他人に替えてしまえる相手に、人を騙すなと諭す方がおかしいのかもしれない。  そんなことを考えていると、先ほど出迎えてくれた女性が戻ってきた。 「犬山さん、準備ができました。車のキーがこちらです。服と道具も準備ができていますが、こちらで着替えていきますか?」 「ありがとうございます! なにせ(カツラ)は目立って仕方ないんで」 「そうねえ、弟さん、とても目立つ目鼻立ちをしていますねえ」  黒いスーツ姿の女性は、ニコニコしながらブルーグレーの作業着がかけられたハンガーラックをガラガラと押して二人を男性用更衣室に案内した。 「スーツを仕舞うテーラーバッグも2セット持ってきたので使ってください」  女性はハンガーラックにかかっている黒いテーラーバックを恭祐に指し示す。これで脱いだスーツを運ぶのにも困らない。
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