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「探偵って、あらゆることに詳しかったりしますか?」
「そうだなあ……尾行や張り込みに必要なことを網羅しようと思ったら、専門外ってもんが基本的に無いかもしれないな」
恭祐はブルーグレーの作業着に着替えると、眼鏡を外して作業着とセットになっていた同色の帽子を被る。
大雅の目から見てもその辺にいそうな作業員だ。
「所長、違和感ゼロですね……」
「桂はちょっと背が高すぎるなあ……なるべく人前では中腰で作業してもらうか……」
「なんでそんな姿勢を強要されなきゃいけないんですか。嫌です」
恭祐は「そうか」と言いながら更衣室のロッカーを開き、黒い工具箱を取り出す。
「安全靴も借りていこう。変装は没個性だ。確か別のロッカーに入ってるはず」
「僕のサイズありますかね?」
「29センチだったよな……そんなに大きいのは無いかもなあ……」
「履いていたスニーカーは車に積んでます」
「あのスニーカーなら量産品だしいいかもな。ってことは、駐車場まで革靴に作業着か」
「目立ってすいません」
「……まあ、なんとかなる」
恭祐は苦々しい顔を浮かべた後、安全靴に履き替えてシューズバッグに革靴を入れる。
大雅は、先にスニーカーが要ると分かっていれば車から持って来たのにと自分の足元を見ながら憂鬱になった。
「じゃあ、行くぞ。槇田社長の住むマンションで電気工事士として張り込みだ」
「ええ? 僕、電気工事なんて分かりませんけど」
「俺が二種持ってるから大丈夫だ。見習いとしてサポートしろ」
恭祐は得意げに親指を立てながら歩くが、青山探偵事務所の廊下に設置された薄いガラス扉に顔から激突する。
頬が潰れ、唇が尖って特徴的な顔つきになった。
「所長……」
「眼鏡を外したせいで、ガラスが見えなかった」
「鳩みたいですね」
どうやら、恭祐の視力は相当悪いらしい。
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