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ターゲットの住むマンションのそばに、白いワゴン車を停めた。
「これからマンションの周りを歩きながら周辺環境を調べる。人とすれ違う時は時々上を見て電線を指差したり図面を見ながら相談したりすれば怪しむ奴はまずいない」
「図面……」
「適当な電気配線図と周辺地図を積んでいるからそれを持って外に出る。張り込みと尾行の計画を立てるために大事な下準備だ」
恭祐はコンタクトレンズを付けていた。作業着姿に違和感がない。
それに比べて大雅は丈が足りないのにぶかぶかで、どこか「着せられている」雰囲気が漂う。
モデルとしてあらゆる洋服を着こなして来たというのに複雑だ。
「じゃあ、行くぞ。ターゲットは槇田浩介、39歳の会社経営者だ」
「録画や撮影はしないんですか? カメラはどうするんですか?」
「最初から車に付いてる。さっき録画を開始させておいた」
「……はい」
なるほど、と大雅は納得した。カメラが搭載された車とは、さすが探偵用だ。
まさかこの作業着にも? とポケットを開けて中を確認したが、これはただの作業着らしい。
恭祐が運転席のドアを開けたので大雅も外に出る。
図面と周辺地図を手に、道を歩きながら周囲やマンションを観察した。
「やっぱり、最近の分譲マンションは侵入しにくい作りになってるな」
「侵入したら捕まるんじゃないですか……?」
「そりゃそうだ。住居侵入罪は刑事罰でも重いぞ。未遂でも未遂罪で捕まる。言っておくが、ビルの屋上に上る行為だって建造物侵入罪で即逮捕だ」
恭祐の話に大雅が背筋を凍らせると、道の向こうからカップルが歩いてくる。
住宅街の細い道ではすれ違うだけでも距離が近いため、大雅は被っている帽子の鍔を握って顔を伏せた。
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