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「堂々としていろ。住宅街でベタベタしているようなカップルは、その辺にいる作業員なんて視界に入ってない」
「でも……はい」
「張り込みに基づいて尾行が始まる。いいか? ここで失敗したら全てが水の泡だ」
「じゃあ、どうすれば……」
「エキストラを意識して演技しろ。アイドル時代に習わなかったのか?」
「……少しは」
大雅は芸能界という場所で生き残るために、芝居もダンスも人並みには習っていた。
ただ、エキストラの演技など考えたこともない。
「お前は今、あのマンションの電気工事を担当する見習いだ。俺が技術者で何から何まで教えなくちゃならない状況だと思って演技しろ。簡単だろ?」
「全部アドリブですよね?」
「台本じゃ想定外に対応できないだろうが」
「シミュレーションはできるじゃないですか」
住宅街の私道を歩きながら二人が小さな声で言い合っていると、恭祐の腕時計が「ピコン」と通知音を鳴らす。
「ターゲットがマンションを出た。面取りに行くぞ」
「面取りって何ですか??」
「ターゲット本人の実物を確認して特徴を把握することだ。写真と実物は何かしら違う」
大雅はなぜターゲットがマンションを出た際に通知が来たのか尋ねたかったが、走り出した恭祐が速くてそれどころではない。
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