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時刻は20時を過ぎていた。
大雅は駅ロータリーに車を停めて、徐々に現在地に近づいてくるGPSの情報を眺めている。
「自力で食事にはありつけたけど、こんなことでリスクを負いたくないな……」
そう言いながら、人差し指と中指で挟んだ1枚の名刺に書かれた携帯電話の番号を眺める。
SNSのQRコードが印刷された名刺には、女性の柔らかい筆跡で「お友達になってください」と書かれていた。
大雅は「お友達って」と小さく笑い、それをくしゃりと握って弁当殻の中に放り込む。
考えてみれば、恭祐を待つ義理などないはずだった。
命を助けられたのではなく、邪魔をされただけ。いわば疫病神のようなものだ。
大雅と同じように変わった力を持っているのなら、利用してやるのも一興だと思ったのだ。
延びた寿命の分くらいは、と探偵ごっこに付き合っているが、未だ愉快なことは起きていない。
「あの『所長』、狂わせてみようかな……」
空には満月に少し足りない月が浮かんでいる。大雅にとっては申し分のない夜だ。
GPSは線路に沿いながら近づいてくる。
大雅がくすりと笑っていると、恭祐が最寄り駅に到着した。
駅舎から出てくると、大雅の乗る車に向かって一直線に走ってきている。
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