二人の末裔

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「あの人もそれなりに目立つ気がするけど……」  そんな風に呟いて車のロックを解除すると、恭祐が助手席に飛び乗ってきた。  眼鏡を掛けていない目が爛々と光っている気がして、大雅は一瞬息を呑む。 「車を出せ。マンションを行き過ぎたところで待機する」 「どういうことですか?」 「ターゲットと同じ電車に乗って来た。マンションに入るところを録画しておくぞ」 「……相変わらず、人遣いが素晴らしいですね」  嫌味たっぷりに言ってエンジンをかけると、大雅は荒々しくアクセルを踏み込む。  急発進で恭祐の身体が背もたれにぶつかる音を聞き、大雅はそのまま槇田のマンションまで車を進めた。 「なるほど。(カツラ)は、外見と声で相手を狂わせるんだな」  隣からそう声をかけられて、頭のてっぺんまで上っていた血が急激に下がっていくのを感じる。  ハンドルを握りながら、脂汗なのか冷汗なのか分からないものが、頭皮と背中からジワリと吹き出した。 「なんで……それを……」 「俺は夜の方が目がいい。昼間と今で外見の雰囲気が違っているのは分かる。あと、声の質というのか、調子というのか、人を惑わせる声を使えるに違いない」  あっさりと能力を見破られたことで、大雅はさっきまでの勢いを失った。 「そんな簡単に分かるものなんですね」 「俺が末裔だからだろ」 「……」  末裔とは具体的にどういうことなのか、末裔だとなぜ能力を見破れるのか、聞きたいことがいくらでもある。  だが、それをハッキリと聞けないくらいに大雅は動揺していた。 「女の匂いがするな? 車に連れ込んだりしたのか?」  殺気立つ恭祐が、隣で金色に目を光らせている。  険しい顔つきに犬歯が目立ち、獣が唸りながら威嚇をしているようだ。 「い、いえ……。コンビニ店員の女性に弁当をもらっただけですよ」  恭祐の鋭い視線に粟立った大雅は、自然に身体が震えだすのを止められない。
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