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「水沼が槇田の元にいるうちにできるだけ先手を打っておきたい」
「はあ……」
いつまでも終わらない今日の出来事に、大雅は生きてきた中で一番長い一日を過ごしている気がしていた。
「いよいよお前の出番だぞ、桂。社内の女性ネットワーク、そして水沼を魅了して真実を聞き出せ」
「……え。僕なんですか??」
「お前にしかできないことだ。楽勝だろう?」
「いや、さっき能力は使うなって……」
「俺が許可するまでは使うな、と言った。つまり、業務では思い切り使ってもらう」
きっぱりと言い切りながら、恭祐は車一台分の車間距離を割り込んで後ろのトラックから長いクラクションを鳴らされた。「プア―」という音が高速道路に響く。
「うるせえ! トラック野郎!」
クラクションの音に声を上げる恭祐を横目に、大雅は自分に課せられた任務を受け入れられない。
――いや、何言ってんの、この人。仕事で人を魅了しろって……。
――隙を見てこの人を魅了して、仕事から逃げないと……。
男性が相手でも、短時間だけ言いなりにさせるくらいはできる。
このまま恭祐に振り回されていたら、愉快に暇つぶしをするどころか能力を利用されるだけになりそうだ。
「あと、桂が暴走したらすぐに捕まえに行くからな。無駄なことは考えるなよ」
――まさか、心の中が読める……?
大雅は「はい」と力なく返事をしながら、手に汗を握った。
こんなはずじゃ、と後悔ばかりが頭をよぎるが、車は神奈川県から東京都に入る。
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