女性を魅了するだけの簡単なお仕事

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 青山探偵事務所に行った時、恭祐は女性所長と和やかに話をしていた。  浮気調査を請けていない理由といい、どこか不可解だ。 「話はできる。だが、女性と食事をするなんて、考えただけで倒れそうだ」 「大袈裟です。もしかして、女性が苦手なんですか?」  恭祐は夜の高速道路を運転しながら、切長の目を細めてため息をついた。 「嗅覚が鋭いという話はしたよな?」 「さあ? 具体的には聞いてませんね」 「俺の家系は視力が弱く、嗅覚と聴覚であらゆることが分かる。だから女全般の匂いと声は刺激が強く、ちょっとしたことでキャパシティが足りなくなる。仕事の内容を話すくらいなら冷静でいられるんだが……」 「末裔とおっしゃっていましたが、それは遺伝ということですよね? ご家族皆さん、異性に弱いんですか?」 「……」  ああ、特殊なのは恭祐だけなのだろうなと思った時、「時代が変わったんだよ」と寂しげな声が返ってくる。 「それまでは結婚相手が子どもの頃から決まっているような家だった。許嫁の存在に助けられていたんだろう」 「普通に生きていたらどこに行っても異性がいるじゃないですか。慣れなかったんですか?」 「慣れる気がしなかったから男子校に進学した」 「そこまで行くと女性恐怖症を疑いますね」 「男からは大人気だったからな!」 「……たけよさんを見たので疑う余地もありません」  世の中には男か女しかいない上に、半数は女性だ。  これでよく事務所を経営できたものだと大雅は思う。  女性の連絡先を聞くだけでこれだけ騒ぐのであれば、この手のネタでゆするのは容易(たやす)いかもしれないな、と大雅はほくそ笑んだ。
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