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ようこそ不忍探偵事務所へ
恭祐が運転するシルバーグレーのセダンは、左側が運転席のため助手席は右側になる。大雅は車内を見回した。黒革のシート張りだ。
「探偵って儲かるんですか?」
「あん?」
「BMWって、事務所の所長が乗ってたのと同じだなと思ったので」
「じゃあ、その事務所くらいは儲かるんじゃねえの?」
「……」
大雅はむすっとした顔を浮かべ、そこで会話を止めた。
「あのなあ、所長がそれなりの車に乗っていなかったら仕事の取れない暇な事務所だと思われるだろうよ」
黒いサングラスを掛けたまま、恭祐は面倒くさそうに言い放った。大雅は右側を向き、首都高速道路から見えるビルの景色を眺めている。
「……なんか、見栄の張り合いみたいで面倒くさいですね」
「探偵なんて、人気があるところに頼みたいもんだろ。中古のボロい軽自動車で俺が現れたら、『ここに頼んでも大した成果は上げてくれなさそう』ってなるのが人間だ」
「確かに」
「中古の軽トラックで現れてみろよ?」
「なんか、山奥に捨てられそうって思いますね」
「ちょっと待て。そこまで酷いか?」
恭祐が白けると、大雅は「あはは」と笑う。「ようやく笑ったな」と恭祐は車線変更をしながら呟いた。
「さっきは、能力を使って女から屋上の鍵を手に入れたのか?」
「……はい」
「『魅了』の一種か。異性に効くタイプか?」
「日中は女性にしか効きません。でも、夜になると男性にも……」
「なるほど」
「なので、所長にご迷惑をお掛けすると思います」
「具体的にはどうなる?」
「所長は僕を口説き始めるんじゃないかなと……」
そこで恭祐は「ぶはっ」と吹き出してハンドルに体重を掛けるようにして笑った。
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