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「分かりました。水沼さんと仲良くなれば良いのであれば、なるべく魅了しないように気をつけてやってみます。ただ、水沼って人、耐性がなさそうでストーカー化しやすそうな予感がするんですが……」
「その先にいる槇田が本命の調査対象なのだから、ドロ沼な展開は避けてもらいたい」
大雅は男性をも魅了できる声を発して恭祐に話しかけていた。
うまく誘導して水沼がストーカー化しても仕方ないと言わせて責任をなすりつけるつもりだったのだが、どうやら通じていない。
「……分かりました、なるべく夢中にさせないように気をつけます。ターゲットに恨まれたくないんで」
そう言いつつ、自信はないけど、と大雅は窓の外を見たが、暗くて自分の顔が反射している。
遠慮をしなくて良いのなら、水沼を誘惑して事情を聞き出すくらいは難なくできるだろう。
その後で水沼がどうなっても良いならば、という注釈付きになるが、大雅は自分の能力がいかに強力なのかを嫌というほど思い知ってきていた。
「あと、俺に猫撫で声を使われても何も感じないぞ。お前からは男の匂いしかしないからな」
「……そういう仕組みなんですね」
「男と女の一番の違いと言ったらそこだろうが」
「……いや、僕は外見だと思ってました」
嗅覚が鋭いと男女の違いも匂いになるらしい。
匂いを変える方法がない以上、恭祐を惑わせるのは無理なのだろうか。
「ってことは、所長は僕のそばにいても平気なんですね」
「だから、最初に俺はその辺の人間とは違うと言っただろ」
面倒くさそうに言った恭祐の方を見ながら、大雅は「なるほど」とうなずく。
窓の外で移り変わる東京の夜景は、明るくて華やかだった。
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