女性を魅了するだけの簡単なお仕事

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  ***  事務所に戻ると、恭祐は明日の11時に大手町のオフィスに着くように移動すると大雅に告げた。  時刻は22時半を過ぎているが、2人は2台のデスクを挟んで立ったまま話している。 「水沼さんが内通していない可能性もありますか?」  ネクタイを外し、首を締め付けるシャツのボタンを上から2つほど外しながら大雅は恭祐に尋ねた。 「俺たちとの打ち合わせが終わった日にターゲットと合流した時点で、その可能性は薄いだろうな」 「そういう統計でもあるんですか?」 「いや、勘」  何の根拠もない理由に説得力があるのは職業によるものだろうか。  普段であれば顔をしかめなねない「勘」がどんな理屈よりも反論しづらい。 「じゃあ、明日僕が水沼さんを捕まえられたら、ターゲットの話は出さない方がいいですか?」 「そうだな、向こうが話題に出すまでは、単に営業活動の一環として親睦を深めるようにしろ。(カツラ)の能力があれば怪しまれずにできるだろ?」  自分は食事の同席すらできないくせに、と思わなくはなかったが、大雅にとって朝飯前なのは間違いない。 「それだけでいいんですか?」 「その後で少しだけ水沼の尾行をする。ターゲットに電話するくらいの行動を起こしてくれたら良いんだが、メッセージアプリを使われたら証拠を取るのは難しいだろうな」  はぁ、と大雅はため息をつく。  水沼を探るということは、恭祐は前面には出ないのだろう。これはどうやら自分の出番が多そうだ。
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