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事務所に戻ると、恭祐は明日の11時に大手町のオフィスに着くように移動すると大雅に告げた。
時刻は22時半を過ぎているが、2人は2台のデスクを挟んで立ったまま話している。
「水沼さんが内通していない可能性もありますか?」
ネクタイを外し、首を締め付けるシャツのボタンを上から2つほど外しながら大雅は恭祐に尋ねた。
「俺たちとの打ち合わせが終わった日にターゲットと合流した時点で、その可能性は薄いだろうな」
「そういう統計でもあるんですか?」
「いや、勘」
何の根拠もない理由に説得力があるのは職業によるものだろうか。
普段であれば顔をしかめなねない「勘」がどんな理屈よりも反論しづらい。
「じゃあ、明日僕が水沼さんを捕まえられたら、ターゲットの話は出さない方がいいですか?」
「そうだな、向こうが話題に出すまでは、単に営業活動の一環として親睦を深めるようにしろ。桂の能力があれば怪しまれずにできるだろ?」
自分は食事の同席すらできないくせに、と思わなくはなかったが、大雅にとって朝飯前なのは間違いない。
「それだけでいいんですか?」
「その後で少しだけ水沼の尾行をする。ターゲットに電話するくらいの行動を起こしてくれたら良いんだが、メッセージアプリを使われたら証拠を取るのは難しいだろうな」
はぁ、と大雅はため息をつく。
水沼を探るということは、恭祐は前面には出ないのだろう。これはどうやら自分の出番が多そうだ。
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