女性を魅了するだけの簡単なお仕事

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「すいません、じゃあ……改めて、よろしくお願いします……」  尻つぼみになっていく挨拶に、恭祐が大雅の背中をバシンと叩く。 「よし、明日は(カツラ)の大舞台だ。頼むぞ」 「大舞台って、水沼さんをランチに誘うだけですよね?」 「ああ。朝一番で携帯を買って、俺と通話した状態で水沼と接触しろ。こっちで録音しておく」 「ええ?? 連絡先を交換する時、アプリを立ち上げたいんですけど」 「その段階になったら、携帯を触る時に通話を切ればいい。こっちは会話を聞きながら、常に作戦を考えたいんだ。連絡先を交換するのって、最後だろ?」 「まあ、はい」  恭祐がどこで水沼との会話を聞く気なのか分からないが、やり取りの一部始終を聞かれるのが任務なのかと緊張感が増す。  恭祐は大雅から離れていき、部屋のドアノブに手をかけて扉を開けようとしていた。  それぞれの部屋に入ってしまう前に、と大雅は口を開く。 「水沼さんの事情は知りませんが、槇田さんと通じているのがあの会社にとって良くないことであれば……気になりますね」 「おお。急にやる気になったな?」  ぱあっと顔を輝かせた恭祐は、切長の目を細くして笑みを浮かべた。  くしゃりと笑った顔に小さく笑窪が浮かんでいて、嬉しい時にはそんな顔をするのかと思う。 「いや、だって、今日は変装も似合わなくて落ち着かなかったですし……」  慌てて言うと、「俺も、誰かを雇うのは初めてで色々悪かったな」と素直に謝られた。 「いえ、じゃあ、お休みなさい!」  なんだか調子が狂って、大雅は自分の部屋に逃げ込む。    ーー私利私欲じゃなく、僕を必要としてくれている?  そう思うと、無性に落ち着かなかったのだ。
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