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水沼は自分の注文したドリアが席に届いても、暫く大雅を見つめていた。
「料理が来ましたよ。食べながら、ゆっくり話しましょうか?」
優しい声色で語りかけると、水沼は「いいなあ、永禮くんは。そんなにカッコよくて優しいなんて」と寂しそうに笑う。
「僕、別に優しくはないですけど……こんな風に水沼さんと会えたのも何かの縁ですし、話をすることで少しは気が紛れればって思ったんです」
大雅は言いながらハンバーグにナイフを入れる。
水沼はバッグの中からハンカチを出して、目に溜まった涙を目頭からそっと拭いていた。
「あのね、学生時代から知ってたゼミのOBの人に、1年前に告白されたの。私はずっと付き合ってるつもりだったんだけど、全然会ってくれなくて。いい年なのに将来の話もはぐらかされちゃうし……もう期待するのは止めようかなって思うようになってたんだよね」
「……そうなんですか。部外者なんで無責任なことは言えませんが、メイさんが幸せじゃないのなら、そのお付き合いは良くないと思いますよ」
ーーいや、これは踏み込みすぎか。槇田さんとの繋がりをもっと聞いた方が良さそうだな。
水沼は小さくうなずいている。
大雅はハンバーグを口に入れて咀嚼し、心配そうな顔を浮かべた。
「あの、彼氏さんって、どんな人なんですか?」
「ああ、うん……ええと……1人で仕事してて、すごくデキる人なの。いつも仕事ばっかりになっちゃうのは仕方ないか、って思ってたんだけどね」
「もしかして、他の女性の影でも……?」
「うーん……」
そこで水沼は黙ってしまった。大雅の魅了が効いていても、槇田の話を渋っている。
これ以上は踏み込めないかもしれない。あまり強く惹かれさせてしまうと、水沼の人生を変えてしまう。
「多分、だけどね……。利用されてるの」
水沼の告白に、ドクン、と大雅の心臓が跳ねた。
ーーリヨウサレテルノ。
頭が真っ白になっていく。
利用、つまり……。
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