96人が本棚に入れています
本棚に追加
「それは駄目だ。メイさん。そんな人といては、自分が、嫌いに……なる、から……」
詳しく話を聞くはずが、大雅は自分を止められなくなっていた。
頭の中で、『大雅に頼めば大丈夫だって』と笑う男の声が、『永禮が言えばなんとかなるだろ』と言い捨てるようにかけられた言葉が、『大雅、あの子が呼んでたから行ってあげてくれない? そうしたら許してあげてもいいんだけど』と冷たく言う従姉の声が、次々に頭に響く。
「永禮くん……? どうしたの? なんだか体調悪そうだよ?」
大雅を気遣っている水沼の声が、遠ざかっていく。
リヨウカチガアルカラ、タイガハショセン、リヨウシテルダケ。
エーヤダ、ツカエナイ。
「桂!!!!」
聞き慣れた声が叫んでいる。
ーーなんだよ、カツラって。僕のどこがカツラなんだよ。
遠くなる意識でそんなことを思っていると、「犬山さん!! 弟さんが!!」と必死に説明をする水沼の声が聞こえる。
ーーいぬ、やま。
「水沼さん、すいません。こいつ、ちょっとトラウマがあって。この件は秘密にしてもらえませんか?」
「も、勿論です! 私、わきまえているオタクなので!」
2人のやり取りを聞きながら、自分の身体が誰かに担がれているのをぼーっと他人事のように見ていた。
ーーしまったな、まだ、連絡先を聞いてないのに……。
そう思った時には、景色が目まぐるしく変わっていた。
最初のコメントを投稿しよう!