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「俺が、桂を口説く??」
「せいぜい笑っていてください。どうなっても僕は知りません」
「いやいやいや。女すら口説けない俺がなんでわざわざ桂を口説かなくちゃいけないんだよ」
「……え?? 女性を口説けないんですか?」
「いや、そこを掘り下げてくれるな」
「所長って27歳なんですよね?? 彼女さんとかいないんですか?? もしかして……」
「ヤメロ!!」
大雅は一度ほくそ笑み、改めて運転席の恭祐を観察した。
恭祐は黒いスーツも身体に合ったものを着ているし、愛車はBMW、顔だって整っている。背も175㎝くらいはありそうだ。
「ところで、その鬱陶しい髪型はワザとなのか?」
恭祐は話題を変えたかったのか、大雅の肩まで伸び切った髪を指摘した。
「あー……美容室に行くとトラブルが起きるので足が遠のいてしまって。前髪が長ければ女の人とも目が合わなくてストーカーにも遭いにくいので」
「なるほどな。美容室は鏡だらけでお前の武器が無差別に暴発するのか」
「……まあ、はい。……お客さん同士が僕を巡って揉めてしまうので」
「客同士が揉めたら、店にとっては迷惑だな……」
「そこから後をつけられたり、満員電車でもないのに後ろから密着されたり、苦労が絶えなくて……」
「なんだろうな、俺には自慢に聞こえるんだが」
恭祐は薄目のまま皇居の横を沿うようにぐるりとハンドルを回しながら、神田橋インターチェンジで首都高速都心環状線を降りて車を走らせる。
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