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使えない助手
気づくと、大雅は見慣れない部屋で横になっていた。
どうやらここは小さな個室で、ベッドの上にいるらしい。
申し訳程度の薄い毛布が掛けられていて、壁や床には何の装飾もない簡素な部屋だ。
「そうか、さっき……」
水沼の前で意識を失い、どこからか現れた恭祐に運ばれたのだ。
あれからどれだけの時間が経ったのかも分からない。
「失敗、しちゃったな……」
小さく呟くと、部屋のドアをノックする音がする。
「はい……」
身体を起こしドアに向かって声をかけると、恭祐がそっと部屋に入ってきた。
「すいません、僕……」
「謝らなくていい」
「水沼さんの連絡先を聞こうと思ったのに……」
「もうそれは大丈夫だ」
「力になれなくてごめんなさい」
「充分だった」
恭祐が深刻な表情で語りかけてくる。
この人、こんな心配そうな顔もするのか、と、得をした気分になったけれど、理解の及ばない他人から同情されるのは面倒だなと思う。
「謝るのはこっちの方だ。お前が心に傷を負っていることくらい想像できたはずだったのに、俺は……」
「途中までは、うまくやってたと思うんですよね、僕」
「そうだな。水沼がお前を知っていて、評価までされていたとは思わなかった」
うまく笑えていない恭祐に、この人は本来嘘が下手なのだろうなと思う。
だから女性が苦手なのだろう。ふとそんなことを感じた。
そのくせ探偵として姿を偽ったりするのだからおかしなものだ。
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