使えない助手

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(カツラ)、その用事が済んだら行くぞ。身体はもう良いんだろ?」 「あ、はいっ!」  大雅はベッドから出て立ち上がり、脇に置かれた靴を履く。  水沼と共に部屋を出ると、そこは沢山のデスクが並んでいるオフィスの中だった。 「ここ……」 「会社の救護室で休んでいただいてたんです。犬山さんに運ばれる(カツラ)くんがお姫様みたいで、女性社員が騒いでいましたよ」 「お姫様……複雑です」 「眼福でした」  うふふと笑う水沼が元気そうで、大雅はまあいいかと思う。  恭祐は王子様という柄でもないが、ここまで運んでくれたことを揶揄(からか)う気にはなれなかった。 「所長、あの。使えない助手ですいません」 「あん? 使えない助手の定義は?」 「えっと……」  大雅が戸惑っていると、恭祐はどんどん先に行き、背中が遠くなる。  慌てて大雅は恭祐のすぐ後ろまで走って追いついた。 「俺は(カツラ)を使ってる訳じゃない。だから、使えるとか使えないとか、そんな指標はない」 「はい?」 「聞いてなかったのかよ。ああ、もう二度と言わねえ」 「ちょっと待ってくださいよ、僕は所長と違って耳が良くないんです」 「知るか。大したこと言ってねぇし、もういい」  一度言ったんだから勿体ぶらないでくださいよ、と大雅はオフィスの中を歩きながら恭祐に抗議する。  その様子に水沼と数名の女性社員が温かい目を向けていた。
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