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トマト味のチキンピラフを盛り付けて、コンソメスープとミモザサラダをテーブルクロスの上に並べる。
彩りもよく、美味しそうな出来になった。
大雅は満足げにうなずいて、恭祐を呼ぶことにする。時刻は19時過ぎだ。
「所長ー。夕食ができましたけど」
部屋に引きこもっていた恭祐が「おう」と中から返事をする。
寝ていたのだろうか、反応が鈍い。大雅は席について恭祐を待った。
「よう。こんな姿で悪いな」
部屋から出てきた恭祐には、頭にふさふさしたものが2つと茶色い尻尾がついている。
「……なんすか、それ」
仮装らしい。ハロウィンの予行練習でもするのだろうかと大雅は思った。
「なにって、人狼だし。満月の夜にこうなっちゃう体質?」
「……は?? マジですか」
人狼とは物語の中の妖怪ではなかったのか。
大雅は様子の変わった恭祐を見ながら、確かにこれは末裔なのかもしれないと思う。
「尾行の時は警察犬並みの嗅覚が生かせるんだが、満月の夜にこうなるのだけはどうしようもない。病弱なフリをして部屋から出ないようにしてきた。事務所に人を呼ばないのはそういう事情もあるんだ。なるべく、人が来る状況を作りたくない」
「そうだったんですか……」
顔はいつもの恭祐だったが、頭の上から生えた耳は茶色い毛が生えているし、茶色い尻尾は太くて立派だ。
「まあ、そんなわけで人と生活するのは大変なんだよ。それにしてもうまそうな飯だな」
並んでいる料理を見ながら、恭祐は口角を上げた。
その時に犬歯が口からはみ出していて、人間とはどこか表情が違う。
「僕、不忍奇譚が気になってきました」
「桂男のところが読みたいのか?」
「むしろ、末裔にどんな人たちがいるのか気になりますね」
「末裔が実際にどのくらいいるのか、あの本がフィクションを入れていないのかは分からん。俺は犬山家以外で末裔に会ったのは桂が初めてだったんだ」
「そうなんですか……」
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