エピローグ:探偵は忍ばず

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 ***  トマト味のチキンピラフを盛り付けて、コンソメスープとミモザサラダをテーブルクロスの上に並べる。  彩りもよく、美味しそうな出来になった。  大雅は満足げにうなずいて、恭祐を呼ぶことにする。時刻は19時過ぎだ。 「所長ー。夕食ができましたけど」  部屋に引きこもっていた恭祐が「おう」と中から返事をする。  寝ていたのだろうか、反応が鈍い。大雅は席について恭祐を待った。 「よう。こんな姿で悪いな」  部屋から出てきた恭祐には、頭にふさふさしたものが2つと茶色い尻尾がついている。 「……なんすか、それ」  仮装らしい。ハロウィンの予行練習でもするのだろうかと大雅は思った。 「なにって、人狼だし。満月の夜にこうなっちゃう体質?」 「……は?? マジですか」  人狼とは物語の中の妖怪ではなかったのか。  大雅は様子の変わった恭祐を見ながら、確かにこれは末裔なのかもしれないと思う。 「尾行の時は警察犬並みの嗅覚が生かせるんだが、満月の夜にこうなるのだけはどうしようもない。病弱なフリをして部屋から出ないようにしてきた。事務所に人を呼ばないのはそういう事情もあるんだ。なるべく、人が来る状況を作りたくない」 「そうだったんですか……」  顔はいつもの恭祐だったが、頭の上から生えた耳は茶色い毛が生えているし、茶色い尻尾は太くて立派だ。 「まあ、そんなわけで人と生活するのは大変なんだよ。それにしてもうまそうな飯だな」  並んでいる料理を見ながら、恭祐は口角を上げた。  その時に犬歯が口からはみ出していて、人間とはどこか表情が違う。 「僕、不忍奇譚(しのばずのきたん)が気になってきました」 「桂男のところが読みたいのか?」 「むしろ、末裔にどんな人たちがいるのか気になりますね」 「末裔が実際にどのくらいいるのか、あの本がフィクションを入れていないのかは分からん。俺は犬山家以外で末裔に会ったのは(カツラ)が初めてだったんだ」 「そうなんですか……」
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