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「ときに桂くん。君は掃除が得意だったりしないかね?」
「……得意だと思ったことはありませんでしたが、所長を普通とするならば得意なのかもしれません」
「ははは、それは頼もしい。家事全般はどうだい?」
「家政婦でも雇ったらどうですか? BMWより安く上がると思いますが」
大雅は事務所の奥に見えるキッチンスペースを目に入れながら言った。
「馬鹿だなあ、桂くん。家政婦というのは大抵が女性ではないか。俺のような硬派な男が、家に女を入れるとでも??」
「家政婦を何だと思ってるんですか?? 仕事として家のことをやってくれる人ですよ?」
「それにしたって、女の残り香がしてしまうだろうが!」
「それが何なんです? ずっと残るものでもないですよね?」
「見ず知らずの女性と同棲している気分になってしまうだろうが! だからと言ってどこの馬の骨とも分からない男を入れるのも無理だ!」
そこで大雅は「あ、この人そういう……」と憐みの目になる。そして、散らかり放題の部屋を見回した。
恭祐のために労働をする気にはなれないが、自分の居住空間がこのままなのは耐えられそうにない。
「……分かりました。まずは片付けからやればいいですか?」
「そうだ」
「掃除や片付けに必要なものを買うにはどうすればいいでしょうか?」
「うむ。所長のビジネスカードを使いたまえ」
「『事務所の』ビジネスカードですね。ありがとうございます。あと、給与などの条件は……」
「とりあえず1年は試用期間だ。衣食住を保証してやるから、それ以外は成果報酬だな」
「……随分とブラックですね」
「衣食住付きでスキルもないやつを一人前にさせるんだから真っ白だろうが。まだ労働力にもなっていないやつが偉そうに人の事業をブラック化させるんじゃない」
大雅は一度恭祐を見て、そんなうまい話が転がっているわけがないかと渋々うなずく。まずはどこから片付けを始めるか、目の前の大仕事に軽い絶望を覚えた。
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