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わたし、曾山あかりには好きな人がいる──。  名前は三秋優、中学校に入学してすぐに、三秋くんと出会い、そして恋に落ちた──。  でも、わたしは、他の女の子みたいにオシャレでもないし、話し上手でもない。  正直、自分自身に自信が持てなかった。  それに対して三秋くんは、明るくて、誰とでも気さくに話すし、ルックスはクラスメイトの中でもかなり良くて、入学して間もないにも関わらず、クラスの女の子にも人気だった。  ──わたしなんかが三秋くんに告白なんて出来ない。だって、どう考えても釣り合わないじゃない。  だから今日も、教室の隅の席で、黒板側の席に座って友達と話す彼をただ眺めていた。  友達との会話に無邪気に笑う三秋くん、その中性的で少し幼い顔立ちの彼をずっと見ていた。  すると彼は一瞬こちらを見て、友達になにか言ってから、こちらに近づいてきた。心臓の鼓動が早くなる。  ──ど、どうしよう、さすがにジーっと見つめすぎて変な奴だと思われたかな。  何見てんだよ、とか言われるのかと思い、自分の胸の前で手の平を握る。そして彼は私の机の前に来て、 「あかりさんだっけ、俺のこと覚えてる? ほら、入学式の日の」  そう聞いてくる彼は笑顔だった。あれ・・・・怒ってない? 「うん、忘れるわけないよ、あの時──わたしに真っ先に気づいて保健室に連れていってくれたんだから」  そうわたしは入学式の日、体調崩していて体育館の前で動けないでいた。他の生徒はそんな私を一瞥するだけで、助けてくれなかった。  先生も気づかない中で、三秋くんだけは気づいて真っ先に駆け寄り肩を貸して保健室に連れて行ってくれた。  それだけじゃなく、彼はわたしを心配して回復するまで保健室に居残ってくれた。 「ひどいよね、皆して見て見ぬふりしてさ、でも良かった覚えていてもらえて」
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