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入り口の幕が上げられた。そちらに視線が動くと同時に心臓が跳ね、激しく脈打ち始めた。 黄金の天幕の眩さを影に貶める輝き。白い肌に添う水色の絹の裾を三、四人の侍女に取らせ、王の後に従うシェへラザード。 孔雀の羽が揺れるベールから溢れる絹糸のような黒髪、薄いベールで顔半分を覆っていてもその麗質は隠しようがない。宝石も金も、夜空に輝く月や星でさえも羞じらい雲の影に身を隠すだろう。 アフラの全ての光と恩寵が彼女を照らしているようだった。まさに羞花閉月。 モルテザにとって幸いなのは、男達の視線が全て彼女に注がれていたことだ。 木々生い茂る森に枯れ木を隠すように、モルテザの高鳴る胸の鼓動も動揺も他に紛れてしまう。 見惚れずにいられる者があろうか。豪快に一頭丸ごと焼かれた羊肉の食欲をそそる香りも、シェへラザードによって止められた時を動かすには至らなかった。時の経過を望んでいたのに、身心もずっと彼女に捧げ尽くしていたかった。
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