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「宴の主役はそこにいるモルテザだ。さあ、料理をどんどん運べ。音楽を奏でよ」 王の合図でダルブッカ(太鼓)、ドンバック(太鼓)が打ち鳴らされ、ネイ(笛)、セタール(弦楽器)の作る旋律に、カーヌーン(撥弦楽器)とサントゥールの音色が織り込まれる。肌も露な美しい躍り子達がリック(タンバリン)を鳴らしながら身をくねらせ、扇情的な躍りを披露する。 場は一気に盛り上がり、羊肉が切り分けられ、杯を空ける度に酒を注がれるが一向に酔えない。 続々と食欲をそそる香り高い食事が並べられる。バターで煮た米に雉肉を乗せたもの、陶器の鉢に玉葱、生姜、バターで調理した肉が盛られ、鶴や小鳩の料理、魚と野菜のシチュー。甘味はクリーチャと呼ばれるパンにサーブニャという砂糖菓子。金銀の器には柘榴、メロンに葡萄、ジャッムーンという初めて目にする果物等々。 モルテザはそれらを夢中で口内に詰め込んだ。シェへラザードの青い瞳から出来るだけ意識を逸らそうと足掻いた。王や高官に話しかけられても、ひたすら仮面を被りオウムのように答えて遣り過ごす。彼等が余りモルテザの過去や生い立ちに関心を示さないのは幸いだった。
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