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「シェへラザードは人ならざる者の声を聞き未来を予見する。そなたが王都に入る前の晩、森からの囁きを耳にしたと教えてくれた」 「……」 牢屋ですでに聞いたというのは黙っていた。せっかく消えた罪を蒸し返すのは愚かだ。 「そうです。この国にとって正しいことをなす者が現れると。それはモルテザ、貴方だと新たに囁く声がありました」 すっかり沈黙して様子を見守る高官達の間に微かなざわめきが起こる。 「具体的に正しいこととは?」 青い瞳に呑まれそうになる。モルテザの口中が渇いて声が掠れた。シェへラザードを意識し過ぎて頭に血が上っていた。一言絞り出すだけで毛穴が縮む。王に対してさえ臆してはいないのに、シェへラザードの前では無力でちっぽけな蟻に等しい。 「私にも詳しくは分かりませんが、森に眠る美姫について書かれた碑文があるのです。私に囁くのは美姫の思いを伝える魔物なのか妖精なのか……」 シェへラザードが語る内容は至極物語めいている。それなのに違和感が薄く現実と捉えるのは、彼女自身が人離れした美貌の持ち主だからだろう。
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