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「勇者よ。シェへラザードの言葉を疑っているのか?」 モルテザの視線が王からシェへラザードに流れた。海を呑み込んだような深い青からは何も読み取れない。 「シェへラザードのような女は二人とはいない。月の女神ですら跪く美貌、賢者ビラルですら舌を巻く知性。だがいずれ美は衰え、物語は尽きるだろう。一夜一夜が最後と思うからこそ愛おしい」 王がシェへラザードの肩に手を置き、モルテザに注いでいた彼女の視線が王の上に移ったが、やはり瞳の色は深く細波さえ起こらない。 「そなたの物語が潰えても、苦しまずに済むよう首を落とし枕元に飾る。そうすれば他の女を抱いても、そなたを抱いている心地になれる。シェへラザードよ。余が本当に愛しいと思うのはそなただけだ。だが女の愛は移ろいやすい。そなたが余を裏切らないうちに首を落とす。恨むな」 モルテザは王の狂気に凍りついたが、シェへラザードは口元に薄く笑みを忍ばせたまま動じる様子はなかった。
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