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「物語が尽きぬうちは殺さない。余のためだけに語るうちは──」 モルテザの顔は血の気が引き青ざめていた。恋い焦がれる女性の命の期限を目の前に突きつけられながら打つ手がないとは。無力感と罪の意識から床を睨む。 仮面はとうに剥がれていた。 シェへラザードに対する執着は王には見抜かれている。ただし数多いる男達の一人として。ならば恐れることはない。王は自分を恐れていない。ただの駒と考えているのだから。 「貴方もお望みか? 俺が森に行くことを」 モルテザは俄然として頭を上げ、シェへラザードを見つめて訊ねた。今まで生きてきた中で最も無力を実感しながら、鎖を絶ち切る力の源を彼女に求めずにはいられなかった。彼女が望むことを知りたかった。 「俺がこの国にとって正義をなすことをお望みか? 俺が森に行くのが正しいこととお考えなのか──」 哀しい問いだ。鎖に繋がれた者同士、王の前で彼女の唇が真の願いを唄うはずもない。
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