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鳴り響く鐘鼓、太鼓にラッパの音がモルテザの沈静を破った。馬の嘶きと号令を掛ける声。何やら外が騒がしい。モルテザは風呂に浸かった後、日陰の長椅子に寝そべり、庭園のいずこともなく視線を遊ばせていた。 「あの音は何の合図だ?」 身を起こし左手前方の無花果の木の側に立つ奴隷に声をかける。 「王様が狩りに参られるのでしょう。良くある恒例の行事です」 そういえば闘技会でも、狩りでの負傷の快気祝いでも同じような内容の詩を詠んだと憤慨して詩人を象に踏み潰させていた。負傷する度に快気祝いの場で詩を詠まなければならない詩人は哀れという他ない。いっそのこと快気出来ないほどの傷を負えば、本当の春祭を祝えただろうにと心中で毒づく。 鐘鼓、太鼓の音が遠ざかり、枝葉を通して和らいだ陽光が注ぐ穏やかな庭の情景に戻った。 そろそろ室内に入ろうと椅子から腰を上げたとき、サントゥールの微かな調べが意識を惑わせた。サントゥールの音色にシェヘラザードの姿を結び付けてしまうのは、モルテザの願望が強く反映されている。この音色が彼女の声という錯覚をもたらしてくれるならばいつまでも耳を傾けていたかった。
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